東京芸術劇場シアターオペラvol.6:『カルメン』2013/02/18 16:22

昨日(2月17日)は芸術劇場でビゼーの『カルメン』を見てきました。先週の『愛の妙薬』に続いて、今回もマチネ。

スタッフ&キャストは以下の通り。

出演
カルメン(ジプシーの女、レジスタンス):ジュゼッピーナ・ピウンティ
ドン・ホセ(混血の伍長):ロザリオ・ラ・スピナ
エスカミーリョ(闘牛士):ダニエル・スメギ
ミカエラ(現地人の娘):小川 里美
スニガ(現地人の将校):ジョン・ハオ
モラレス(現地人の伍長):三塚 至
フラスキータ(レジスタンスの女):鷲尾麻衣
メルセデス(レジスタンスの女):鳥木弥生
ダンカイロ(レジスタンス):晴 雅彦
レメンタード(レジスタンス):ジョン・健・ヌッツォ

指揮:井上道義
管弦楽:オーケストラ・アンサンブル金沢 
コーラス:武蔵野音楽大学(合唱指導:横山修司)
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団(児童合唱指揮:掛江みどり)

振付:中村恩恵(コンテンポラリーダンス) 他
演出:茂山あきら

よくわからない「5都市共同制作公演」と銘打ったもので、地方によって出演者やオケもまちまち。共同というのは演出のコンセプトが一つになっているってことなんでしょう。多分。

まずコンサートホールのオペラですから、本格的なものとは全然条件が違います。そこを逆手にとって何かやりたいと思っていたみたいです、演出家は。茂山あきらという狂言師(←面白い職業だ)が演出をしていたらしいんですが、最近はやりの読み替えをやりたかったんでしょう。まず舞台はスペイン植民地時代のフィリピンのマニラ。そこにジプシーのカルメンが流れてくる。闘牛士のエスカミーリョも流れてくる。ドン・ホセはスペインとフィリピンの混血。密輸団の代わりはフィリピンのレジスタンス。要するにフィリピンのレジスタンスのメンバーにはジプシーが混じっているのだ。ミカエラはフィリピン人。

それで言葉は日本語とフランス語がチャンポン。合唱は主に日本語で歌い、カルメンやホセ、エスカミーリョはフランス語で歌う。その他の登場人物は歌はフランス語、台詞は日本語だったりといった具合に、適当にやっています。字幕はフランス語はもちろん日本語の部分も映し出す。で、なかなか独特な字幕翻訳。エスカミーリョがホセに向かって「お前がカルメンの元カレか」と歌い、カルメンは「うざってぇんだよ」とホセを怒鳴りつける。ここらへんがきっと演出家狂言師の面目躍如たるところ。つまり演出家は、日本語もフランス語も違和感なく飛び交うような状況を作り出したかった。それがこの珍奇な時代と場所の設定だったわけです。

演奏会場という制約があるため、場面転換などは一切なし。ステージ上には最初から第4幕のしつらえがしてあり、オケは舞台の手前客席を4列ぐらい取り払って、10編成ほどのこぢんまりとした規模で演奏。舞台の中心に丸い演台があって、主な登場人物はそこに乗ったり降りたりして歌い演技します。演台を取り囲むように半円形に合唱団席が設けられていて、児童合唱を含め100人ほどが乗っています。合唱は舞台中央には関わらず、自分の席で立ち上がったり、時に身を乗り出したりして、演台上の出来事を囃したてるかのように歌います。

これがちょっと違和感ありあり。第1幕の街中の喧噪、第2幕の酒場の乱痴気騒ぎのような華やいだ場面でも、群衆はあくまでも蚊帳の外から煽り立てるだけで、絶対に芝居には参加しない。ギリシャ悲劇のコロスのような役回りに徹します。なぜ、そうしなきゃならないのか。その意味は明かされません。ただし、第4幕の闘牛場のシーンではこれがすごく効果的でした。しかもトロンボーンをオルガンのバルコニーに持って来て、闘牛場内の歓声と、外のカルメンとホセの諍いとのコントラストをみごとに表現していたと思います。

カルメンのジュゼッピーナ・ピウンティが圧倒的な歌唱力と美貌で満場の喝采を浴びていました。ホセのロザリオ・ラ・スピナという人、プロフィールによると:

「黄金の声」、「オーストラリアのパヴァロッティ」と渾名される美声の持ち主で、ドラマティックな役作りには定評がある。 

んだそうですが、確かにパヴァロッティの再来と思わせたのは胴の太さ、足の太さ、背の低さ故か。太股がピウンティのウェストぐらいあったな。このところ相撲取りのようなテナーがよく登場するんだけど、昨日のは極め付けだったかもしれない。なるべく姿を見ないで声だけ聞くようにはしていたんですが・・・

エスカミーリョのダニエル・スメギはミスキャスト。声の質がちょっと違いすぎて、残念でした。かと言って、かつてのようなワーグナー歌手の声質かというとちょっと頭をかしげてしまう。どうしたんだろう。ミカエラの小川里美細かなビブラートがきつい気はしましたが、立派に歌って観客を魅了。

初めて聞く井上ミッキー指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢は、歯切れのいい音楽をやっていました。間奏曲のフルート、なかなかよかったよ。

それから時々ダンサーが出てきて、なんだか登場人物の心理描写みたいな踊りというのか、振りというのか、仕草を見せるんですが、あれはいらない。芝居の台詞じゃないが、「うぜえんだよ」。それよりちゃんとフラメンコが踊れるダンサーを一人使った方がずっと面白かったはず。群衆の使い方や児童合唱団のものすごく無個性な行進など、狂言師演出家がちょっとシュールなものをやりたかったのかもしれません。