新国立劇場:『愛の妙薬』2013/02/13 17:34

昨日(2月12日)は二国でドニゼッティの『愛の妙薬』を見てきました。舞台写真はここ。スタッフ&キャストはこちら。このページにはダイジェストのビデオもあります。

どうしても都合があって平日のマチネに行くはめに。一体どんな客がいるんだろうなんて思いながら行ってみたら、ソワレに比べると平均年齢が25歳ぐらい上がった感じ。有閑マダム風のは別として、30〜40代の人はいませんねぇ。そもそも1階、2階の奥はほとんど客が入ってい。なんでこんな時間にやるんだろう。こちらも昼の2時からオペラをみるような体調にはなっていないんで、なかなか芝居に入り込むのに苦労しました。

確か3年振りの再演。カラフルで一歩間違えるとKitschになりかねないような舞台を支えているのが「本」。舞台脇にプロセニアムのように巨大な本が数冊そびえ立っています。背には『トリスタンとイゾルデ』の文字が見えます。芝居が進行するにつれてこの本が左右に動き、時には幕の役割も果たします。これは全員文盲という村の中で、アディーナだけが唯一人本が読めるという舞台設定を象徴すると共に、その唯一の教養人が読んでいるのが『トリスタンとイゾルデ』の惚れ薬のお話というおかしさ、ばかばかしさを強調しているわけです。3年前の初演の際には、さらにその年末に上演される予定の、ワーグナーの作品をそれとなくほのめかすしつらえでもありました。そのほかテーブルや椅子の代わりになる分厚い本が道具として使われ、さらに妙薬を表す“ELISIR”の一つ一つの文字が巨大な装置として、さまざまに移動し、時に兵隊さんが文字の中から現れたりといった漫画風のしつらえも楽しい舞台です(写真2)。

薬売りのドゥルカマーラは飛行機に乗って登場(写真5,7)。衣装だけでなく髪の毛までケバケバしい。バカバカしいけど、誰も憎めない人々を表しているんでしょう。この芝居には悪役が一人も登場しない。ドゥルカマーラは人を騙して金儲けをするけど、でもあの薬ホントは効き目があるんじゃないの、って感じにできている。ネモリーノの恋敵ベルコーレ軍曹でさえ、人物の可笑しさの方が強調されて、恋のさや当てどころか狂言の殿様のような役どころになってしまいます。

ベルカント・オペラとはよく言ったもんで、まあとにかく全編歌づくし。ロッシーニと並んでドニゼッティってモーツァルトの後継者かな。メロディが次から次へと湧いて出て、オーケストラもカラフル。19世紀の人だけど、ロマン派の片鱗すらない。まあもっとも、ロマン派はドイツの専売特許かもしれませんが。

アディーナのニコル・キャンベルはメリスマも鮮やかで、声量もたっぷり。いい歌を歌っていました。。それからネモリーノのアントニーノ・シラグーザは、発声が自然で、言葉がよく聞き取れる歌い方。愛嬌もあって田舎の素朴な青年といった役柄にぴったりはまっていました。前回は『チェネレントラ』のラミーロ(王子)で大いに湧かせてくれましたが、今回も大成功だったんじゃないでしょうか。ドゥルカマーラのレナート・ジローラミは立派な歌い回しでしたが、イマイチ存在感が薄かったかなあ。もうちょっと弾けた演技があってもよかったかも。主役級の中ではベルコーレ軍曹の成田博之はよかったですよ。オペラの中では軍人というのは大抵笑いの対象ですけど、滑稽な所作がなかなか面白かった。

だけど、やっぱり本当の主役は合唱団だった。二国の合唱はホントにすごいですねぇ。あらゆる場面で合唱が大活躍するオペラですが、歌も演技も素晴らしい合唱団でした。オケは軽快な音楽をそつなくこなしていたって感じかな。ワクワクするような躍動感も出ていたし、たとえば「人知れぬ涙」の叙情たっぷりな管楽器の歌い回しもきれいだったし、まあまあよかったんじゃないでしょうか。『タンホイザー』と同時に上演していたんですが、今回はどちらも大成功。