読響 スクロヴァチェフスキ指揮 ベルント・グレムザー(p)2013/10/05 22:41

昨日(10月4日)は久々に読響を聞いてきました。

東京芸術劇場presents
「世界のマエストロシリーズvol.1」

という演奏会。金曜日の午後3時開演。一体お客さんは来るのかな、なんて思いながらブラブラ出かけてみたら半分まではいかないけど、そこそこ入ってるんですよねぇ。平日3時の音楽会にやって来る人って・・・もちろん、二国の平日マチネは老人ばっかりですが、この日はそうでもない。普通の音楽好きな人たちが集っていたみたいです。

曲目は前半がショパンのピアノコンチェルト。後半がショスタコの5番。いわゆる名曲演奏会ですね。スクロヴァチェフスキという指揮者は90歳なんだとか。養老院を抜け出してきたかのように、びっこひいた小柄な老人。晩年になって再びN響を振っていた、ローゼンシュトックを思い出しました。スクロヴァチェフスキという人も出身が同じポーランド。アメリカで活動しているという点でも似通った経歴の指揮者です。

ショパンのピアノはベルント・グレムザーというドイツのピアニスト。一度も名前を聞いたことがない人でしたが、これがまあとんでもなくすごいピアノ弾き。スクロヴァチェフスキの指揮は所々ちょこっと感情の赴くままに、思わせぶりなテンポの変化があったりしますが、基本的には奇をてらわず丹念に音を紡ぎ出す、いわばオーソドックスなスタイル。グレムザーというピアノ弾きもとんでもなくオーソドックスな演奏スタイル。50歳ぐらいですが音大の先生を長年やっているみたいですね。

ひとしきりオケの提示部の歌が済んでピアノが入ってきます。まずびっくりするほど音がきれい。高音がスコーンと抜けるとか、粒立ちがキラキラしているとか、そういう月並みなオノマトペでは表現できない音色の美しさ。しかも高音だけじゃない。第2楽章の中音域で切々と歌うノクターンも、第3楽章コーダの音の洪水も、すべて音が美しくて澄んでいる。軽いソットヴォーチェから、フォルテッシモまでダイナミックレンジもものすごく広くて、とにかく圧倒されました。

40分ほどの曲の中で、一度もピアノがオケの音の中に埋没することがない。ピアノがあまりにもうますぎて、時に「爺さんの指揮がちょっと平板かなぁ、爺さんもうちょっと突っ込む所あるだろう」なんて思いながら聞いていました。これだけのショパンのコンチェルトは近年まれに聴く演奏でした。ポリーニの全盛期にロンドンで聞いた演奏を凌ぐできだったかなぁ(と、うちの妻が申しております)。

とにかくものすごいテクニシャンで、どんな難所でも余裕を持って弾いていますから、聞く方も本当に音楽そのものに集中できました。アンコールはお得意だという、ラフマニノフの前奏曲。

というわけで、ショパンのコンチェルトを聴いて、もう後半はいいかなんて思っていたところ、休憩をかなりはしょって後半が始まっちゃったんで付き合うことに。ショスタコもなかなかよかったですよ。スクロヴァチェフスキという指揮者は、音楽の細部までよく突き詰めて、オケをきれいに鳴らすとともに、見通しのいいクリアな音楽を聞かせてくれました。読響も指揮者の要求によく応えて、一片の曖昧さもない透明な音を出していました。それに加えて、オーケストラも50年の年輪を刻んで伝統の重みを加えたんでしょうねぇ。繊細な響きから重厚なトゥッティまで、余裕を持った鳴り方をしていました。第4楽章のコーダは、バーンスタインがやったイン・テンポの演奏ではなくて、ソ連・ロシアの指揮者が好んでやる半分の速度の重厚な演奏。よく鳴っていました。

30年ぐらい前だったら、全員が汗を滴らせながら目一杯弾いて、ものすごい熱演になったりということがありましたけど、今は熱演じゃなくてごく当たり前に名演ができるようになってきたんですね。

オケの演奏会に出かけたのも久々でしたが、それがすばらしい演奏で、本当に得した気分。