新国立劇場 『パルジファル』 ― 2014/10/15 23:24
どんより曇って、ちょっと肌寒いくらいの一日でした。
パパメイアン(赤)とラ・フランス(ピンク)
アンナプルナ
チャイナ・ドール
クロチルド・スーペール(粉粧楼)
クリムゾン・グローリー
シャルル・ドゴール
ムーン・シャドウ
ドゥフトゴルト
マリーゴールドとアリスター・ステラ・グレイが満開です。
赤いバラはパパメイアン
オールド・ブラッシュ(夏の名残のバラ)
フレグラント・アプリコット
香りのバラ芳純
オレンジ・マザーズデイ
ザ・マッカートニー・ローズ
ラ・フランス
今回の公演はいろいろ考えさせられる問題が山ほどあって、とても軽々なまとめは無理なんですが、敢えて感想文で凌いでおこうという魂胆です。まず、舞台写真のように全三幕、大道具は一緒。写真<5><6>のように、聖杯騎士団の聖堂は二枚の紗幕をつかって表現しています。<7>は第一幕の正餐式の場面ですが、槍を象徴した演出家が「メッサー(刃)」と呼んでいる刃物を模したブレードの上で聖杯の儀式が執り行われます。<9><10>は第二幕でクンドリーがパルジファルを誘惑する場面ですが、ここでもブレードの上に乗ってなにやら思わせぶりな仕草が展開されます。<11>がわかりやすいと思うんですが、舞台の中央から奥にかけて、演出家が「光の道」と呼ぶ、今話題のLEDランプを無数に仕込んだ稲妻形の演台が仕組まれていて、基本は白ですが、状況によって様々な色に変化します。たとえば、<8><13>。
演出はなかなか秀逸だったと思います。キリスト教思想ベタベタの作品でありながら、それから一歩引いて、文化や思想の多様性をイメージさせることに重きを置いた芝居になっていました。全体的にさほど動きのある芝居じゃなくて、グルネマンツがずっと語り続けているオペラですから、劇的な瞬間であっても、登場人物の内面の変化を描き出す必要があるわけで、そのあたりが非常によくできていました。キリスト教とは別の価値観を象徴するものとして、黙り役の仏教の坊主を3人登場させたんですが、これはこれでまあいいのかな、っと? アンチキリストならこういうのは何でもいいんでしょうが、まあものすごくわかりやすい。
この楽劇、やたらと歩くんですよねぇ。もちろんクンドリーは世界中を飛び回っていますが、パルジファルがモンサルヴァート城に現れる経緯も、道に迷ってやってくる。第二幕ではパルジファルがクンドリーに聖杯への道を執拗に尋ねます。この歩くっていう行為が、悟りとか目覚めとか、そういうものに至る課程を象徴している演出って最近多いように思われます。それがまさに今回のLEDを敷き詰めた「光の道」。これなかなかよかったです。そのほかに透明なアクリル性の槍だとか、赤く光るガラスの聖杯だとか、小道具もしっかりと押さえてあって、非常に見やすい舞台でした。
まず第一幕、前奏曲からかなりスカスカな音が聞こえてきて、「え、何だろう?」って気がしました。まるで10年ぐらい前にN響がピットに入った時の『ジークフリート』みたい。広さを持てあまして、ホールの空間がスカスカになった弦楽四重奏を聞いているみたいな、まるで求心力のない音楽。一体どうしたんだろう。まあN響の時は「借りてきた猫」状態だったんで、まああんなものかなって思いましたけど、今回は定評ある東フィルですよ。グルネマンツ、クンドリーは最初からなかなかよく語っていました。
第二幕。オケがまるで別物に化けました。特に金管の重厚な響き、木管の繊細な音色、まあ、バッカナールですからそういった色彩的な面白さがとても重要な場面ですが、その雰囲気を遺憾なく表現していたと思います。クリングゾル、歌い出しからよかったねぇ。艶と潤いがある美声です。魔法使いの女たち(花の乙女)は、舞台上では歌舞伎町のキャバ嬢たちを踊らせて、声はピットで歌わせるというアイディア、よかったと思います。なかなか妖艶の美女軍団でした。できれば、キャバ嬢たちもプログラムにクレジットしてあげたらよかったのに。
第三幕。二幕の「アムフォルタス」の一声以降の仕込みが十分に効いた、悟りの世界を表現した舞台。仏教の坊主も随所登場するんですが、そんなことより、うろたえる聖杯騎士団の面々の表情が非常にうまく描かれていました。聖杯の儀式からしか生きていく糧を得ることができないという、いわばキリスト教のスタンダードが見事に崩壊していく様は見ていて痛快。パルジファルの槍の力により、アムフォルタスは望み通り死ぬことが叶い、光の道を歩むグルネマンツ、パルジファル、クンドリーに追従する騎士もいれば、その場にとどまる騎士もいて、聖杯騎士団がバラバラになって幕が下りる。この幕も歌手陣は大健闘。指揮者+オケも見事な演奏を聴かせてくれました。『指環』が大失敗でしたから、この『パルジファル』のプロダクションは大切にしてもらいたいですねぇ。きっと二国の財産になると思います。
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