オッフェンバック(ロザンタール編)『パリの喜び』&バルトーク『青ひげ公の城』2013/09/14 15:43

明日は台風が関東を直撃しそうです。今からワクテカ。「風よ吹け、雨よ降れ」。これで秋になってくれるんじゃないでしょうか。今夜は前祝いに寿司でも食いに行って、祝杯を挙げたいところ。

さてさて、昨日(9月13日の金曜日)は池袋の芸術劇場で東フィルの演奏会を聞いてきました。まだまだ厳しい暑さの中、出かけるのはかなり億劫だったんですが、思い切って聞きにいってよかったぁ。これが土日の昼間だったりしたら、絶対に行こうとは思わなかったでしょうが、平日の夜にやってくれたのはありがたかった。

曲目は前半がロザンタール編曲のバレエ音楽『パリの喜び』。言わずと知れたオッフェンバックの名曲集ですね。ロザンタール自身がモンテカルロ・フィルを振った名盤がありますけど、舞台でも演奏会でもあまり実演に接することは多くない曲。それでも大オーケストラに豪華なラッパとパーカッションが入って、とにかく盛り上がる曲です。

確か原曲は23曲だと思うんですが、この日は『パリの生活』序曲から始まって、10番の『パリの生活』のワルツまではオリジナルの曲順で演奏。『パリの生活』の中のマズルカとワルツの描きわけはみごと。ウッドブロックのリズムに乗ってブラジル人が登場するアレグロを軽快にやっつけると、『美しきエレーヌ』のポルカ、『天国と地獄』のワルツを情緒纏綿に演奏し、10曲目の『パリの生活』のワルツで一段落。ここからは細かい繰り返しになる部分を刈り込んで、14曲の『ペリコール』のワルツ。これは盛り上がりました。ここで「ブラヴォ」が出ちゃったんですが、実はこれからがクライマックスで、22曲の『天国と地獄』から地獄のガロップ、『ホフマン物語』から舟歌。舟歌の中に『パリの生活』のアレグロが乱入してきて、メデタシ、メデタシ。

東フィルの特に木管、金管のセクションの繊細かつダイナミックな演奏に圧倒されました。指揮の井上道義も水を得た魚というのか、本当に活き活きしていました。

        -------------------ここで休憩20分---------------------

後半は雰囲気ががらっと変わって、バルトークの『青ひげ公の城』。このオペラも滅多に実演で耳にすることはない作品。デデちゃんも聞くのは2回目が3回目ぐらいだと思う。男と女の心の奥底にある、本源的な欲望とか感性の違いを描いているこの作品、もしオペラの形で上演したら、舞台の上では何も事件が起きないし、心理描写を舞台上で描き出すのは至難の業で、しかも超が付くくらい地味な作品。というわけで大抵は演奏会形式の上演になります。この日はおそらく100人規模の巨大オケが乗った舞台上に、指揮者の前からステージの奥にかけて歌手が歩けるスペースを造り、指揮台の下手側前面に重厚な椅子を置くという、最低限の装置を設置して演奏されました。つまり二人の歌手は、舞台前面の上手から下手、それに指揮者の前から舞台の奥にかけて、このT字型の通路をゆっくりと動きながら歌います。

吟遊詩人の仲代達矢が前口上を述べ、薄暗いスポットライトの中をゆっくりと舞台奥に消えていくのに被さるようにして、真っ暗な中から音楽が始まります。本当に最低限の明かり。オケのメンバーからだと、かろうじて指揮をする井上のシルエットが判別できるかどうかっていうような暗さ。やがて少しずつ明るくなって人物が判別出来るほどになってくると、ステージ前面の大きな椅子にはすでに青ひげが座っています。そして、舞台中央の通路からユーディトが登場。たぶん花嫁衣装をかたどったのでしょう。純白でタイトなドレス。メラース・アンドレアというメゾ、なかなか引き締まった強靱な声の持ち主。大オーケストラにも負けない迫力でした。

ユーディトがステージ前面までやって来て、二人の登場人物が揃うと、いよいよ心理劇の始まり。青ひげを歌ったコヴァーチ・イシュトヴァーンはバリトンというよりは、小柄ながら深い声を持ったバスでしょう。黒いズボンにグレーのスモッグのような民族衣装でしょうか。それに膝まで届く血の色を思わせるような真っ赤なマフラーを垂らしています。真っ暗で湿った城を明るくしたいと歌って扉を開けたがるユーディトと、そうはさせまいとする青ひげ。しかし青ひげの抵抗も虚しく、彼は新妻に鍵を渡す。

第1の扉の向こうは拷問部屋。歌手の表情を追っているうちにちょっと明るくなったかなと思ったら、ブラスセクションにだけ四角くライトが当たっています。血のついた拷問の器具を暗示しているんでしょうか。

第2の扉の中は武器庫。ここの武器にも全て血の跡が。ここでも赤くほの暗い照明が揺らめきます。よく知らないんですが、バルトークがスコアに照明の色を指定しているんだそうですね。

第3から第5の扉まで3つの鍵が渡されて次々と開かれます。

第3は宝物庫。きらびやかな光が交錯します。でも全ての宝石には血痕が。

第4は花園。白バラに赤い血が。土にも血が染みこんでいる。

第5は広大な青ひげの領地。ここでやっと照明が普通のオーケストラコンサートの明るい照明になります。芸術劇場のモダンオルガンがブルブル震えるような荘厳な音色を響かせます。巨大なオケも此処を先途と目一杯の音量で対抗。ひとしきり鳴らし終わった後の余韻。ユーディトは血に染まった真っ赤な雲に気づきます。すると多分短三度上がってもう一度クライマックスが築かれます。

青ひげは第6の扉の鍵をなかなか渡そうとしません。でもユーディトが懇願するので嫌々ながら鍵を渡すと、そこは涙の湖。またちょっと照明が薄暗くなり、青ひげの前妻たちの悲しみを想起させます。青ひげが妻たちを殺したのか?

そして第7の扉。3人の妻たちが現れます。第一の妻は「夜明け」、第二は「真昼」、第三は「夕暮れ」、歌の進行に伴って光がどんどん変化していきます。そして青ひげが「四人目の妻を真夜中に見つけた」と歌い、ユーディトは初め抵抗しますが、「お前が一番美しい」と口説かれて真夜中の妻となり、真っ暗な闇があたりを支配。

二人の歌手の控えめな演技が、男と女の心理的な葛藤をみごとに描き出していました。オケもオルガンすばらしい演奏を聞かせてくれました。演出も担当したという、指揮者の井上には盛大な拍手が贈られていました。これだけのプロダクションを一回で終わらせちゃうのはもったいない!

再演を期待しています。


コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ネコのクロかあちゃんとその娘のトムピリさん、二匹の関係は?
兄弟  親子  夫婦

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dede.asablo.jp/blog/2013/09/14/6981831/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。