新国立劇場『三文オペラ』、ルジマトフの『シェヘラザード』 ― 2013/07/14 18:19
一昨日(7月12日)は二国の中ホールで『三文オペラ』を見てきました。ご存知ブレヒトの戯曲、ヴァイルの音楽。元を辿れば18世紀の『乞食オペラ』に行き着くこの作品、乞食オペラと多少設定は変わっていても、大筋はほとんど同じ。戦間期のベルリンで大ヒットしたそうですが、今の日本に持って来てどうなんだろう?という一抹の不安を抱きながら猛烈な暑さの中を初台へ。最高気温35.5℃ですよ。こんな暑い中わざわざ初台まで出かける客ってのも凄いけど、なんでこんな時期にオペラをやるのかねえ。ブレヒトの芝居というわけで、客筋もかなり年配の方が多いみたいでした。
で、その不安がホントになってしまったから、始末に悪い。もともとオペラ歌手というか、クラシックの歌手がやる芝居じゃないわけで、鹿賀丈史とか染五郎(現幸四郎)とか、あるいは元少女歌劇の出身とか、そういった連中が小器用に歌も歌ってみせるという類の出し物。歌が難しくて歌えないなら、その曲はすっ飛ばしてもかまわない。
ところがこの日の上演、台詞が9割。たま〜に出てくる音楽が大層ご立派で、もしクルト・ヴァイルが聞いたらびっくりしたことでしょう。一方9割を占める台詞の部分はまるで子供の学芸会。声は立派なんだが、台詞棒読み。メリハリもなければ、テンポやリズムの変化もない。ポリーだっけ、ヒロインの女は、台詞が頭に入っていないのか、理解していないのか、しょっちゅう言葉に詰まって、言い直したり、自信のなさが演技にまで現れて、おどおどした仕草。まるで感情の乗らない芝居。これを3時間延々と見てなきゃならんというのは、拷問に近い仕打ち。金払って見に来た客にはいい迷惑。せめて染五郎でも連れてくりゃもうちょっと台詞回しも楽しめたんじゃないでしょうか。演出家がひどすぎるのかもしれませんが。
最後に訳詞について。原作はかなりくだけているとは言え、一応韻文なんですが、音楽そのものがドイツ語のバラード風の自由な形式で作曲されているんで、音楽に乗るように訳すのは至難の業。いろんな人がこの訳業に挑戦してきたと思うんですが、今回の翻訳は本当によく出来ていたと思います。
舞台写真はこちら。
スタッフ&キャストはここ。
有名なモリタート
昨日(7月13日)は文京区のシビックホールというところで、ルジマトフとそのお友達がやっているバレエを見てきました。演目は、選りすぐりのゲテモノを呼んでくることで有名な、光藍社というすばらしい呼び屋のサイトからコピー。
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第1部 ガラ・コンサート
「パキータ」より
クーハリ、ストヤノフ、キエフ・バレエ
音楽:L.ミンクス 振付:M.プティパ
「帰還」新作初演!!
ルジマトフ
音楽:民俗音楽 振付:V.ロマノフスキー
「ドン・キホーテ」よりパ・ド・ドゥ
エフセーエワ、シドルスキー
音楽:L.ミンクス 振付:M.プティパ
「瀕死の白鳥」
フィリピエワ
音楽:C.サン=サーンス 振付:M.フォーキン
「海賊」よりパ・ド・ドゥ
チェプラソワ、岩田守弘
音楽:R.ドリゴ 振付:M.プティパ
劇場の都合により、ハニュコワからチェプラソワに変更となりました。
第2部 ガラ・コンサート
「ロミオとジュリエット」よりバルコニーの場面
クーハリ、ストヤノフ
音楽:S.プロコフィエフ 振付:A.シェケロ
「ナヤン・ナヴァー」新作世界初演!!
岩田守弘
音楽:V.ジェルサーノフ 振り付け:P.バザロン
「白鳥の湖」よりロシアの踊り
エレーナ・エフセーエワ
音楽:チャイコフスキー
振付:M.プティパ、L.イワノフ 改訂演出:V.ワシリエフ
「ラ・シルフィード」よりパ・ド・ドゥ
吉田都、シドルスキー
音楽:H.レーヴェンショルド 振付:A.ブルノンヴィル
「ボレロ」
ルジマトフ
音楽:M.ラヴェル 振付:N.アンドローソフ
第3部 「シェヘラザード」(全1幕)
ルジマトフ、フィリピエワ、キエフ・バレエ
音楽:N.リムスキー=コルサコフ 振付:M.フォーキン
アラビアの宮殿。シャリアール王の豪華なハーレム。
暇を持て余しているシャリアール王のかたわらには、美しい寵姫ゾベイダやハーレムの女たち。宦官の提案で、王のためにハーレムの女たち(オダリスク)がエキゾチックで挑発的な踊りを披露する。
その場にいる王の弟シャザーマンは、兄シャリアール王に寵姫ゾベイダの不貞を告げ口する。王はそれを確かめるため、狩りに出掛けると偽り、寵姫たちを残し宮殿を後にする。
王たちが去った宮殿に、寵姫ゾベイダとハーレムの女たちの歓声があがる。女たちは、奴隷たちの部屋の鍵を持つ宦官を巧みに操り、奴隷の部屋を開けさせる。そこから飛び出してきたのは、たくましい肉体を持つ奴隷たち。宦官が最後に開けた部屋からは、寵姫ゾベイダのお気に入りの奴隷が鮮やかな金の衣装姿で出てくる。男女入り乱れての淫らな大饗宴がはじまる。
寵姫ゾベイダと奴隷も欲望の高まりのまま、お互いの愛撫に身体を燃え上がらせて踊る。その踊りが絶頂に達したとき、シャリアール王と弟シャザーマンが戻ってくる。その有り様を目の当たりにした王は、家来たちに全員を殺すように命じる。ひとり残った寵姫ゾベイダは、シャリアール王に命乞いをするが、それが聞き入れられない知ると、自らを短剣で刺し、王の足元で絶命する。
すべてをなくした王は、悲しみのなかで立ち尽くす。
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第1部、第2部のガラ・コンサートは、まあ、真夏によくありがちな企画。ここに挙げたのとは若干順番が変更になったんですが、印象に残ったのはフィリピエワが踊った「瀕死の白鳥」。あまりにも有名な踊りなんで、今更って気もしますが、でも白い肌、白いチュチュ、白いボンネット、この白さが漆黒の闇の中から浮かび上がる様子は、人間の表現を越えた、白鳥そのもの。いい踊り子です。そのほか、ガラを一通り見て、やっぱり二国のバレエってすごいんじゃないかなって、今更ながら思いました。寄せ集めの踊り子じゃなくて、一応は国立のカンパニーだからリハーサルの時間もまるで違うでしょうし。
で、やっぱり何と言っても第3部の「シェヘラザード」がこの日の白眉。ルジマトフはもう20年ぐらい踊っている演目だそうで、日本でも何度もやっているんだとか。知らなかったよ。もっともルジマトフっていうダンサーを実際に見るのも初めてなんだけど。バレエ・リュスの演目の中でも、当時とりわけ人気が高かった一幕物。元のリムスキー=コルサコフの音楽は「海とシンドバッドの船」とかなんとか、そんな表題がついていたような、ついてなかったような。
シェヘラザードの話はアラビアンナイトの一番外枠の構造に当たる物語で、王様の3千人目の奥さんなわけですが、バレエのストーリーはそこを換骨奪胎して、不倫をした最初の王妃の物語にしちゃってます。亭主が留守の間に酒池肉林の快楽に耽る王妃。そのお相手である金の奴隷がルジマトフという設定。これはもう世評もダテではない、スバラシイ舞台でした。これを見るために第1部、第2部はじっと我慢していたのよぉ。ルジマトフっていう人、自分の肉体を見せるのが売りのようで、ものすごくキザったらしいんだけど、でもこの奴隷はホントにはまり役ですね。
一つ気になったこと。バレエを見慣れている人にはどうってことないんだと思いますが、録音を使った公演の音量の問題。たとえば、ボレロの最初のスネアドラムのリズムと弦のピッツィカート。まるで目の前で演奏しているかのように聞こえて来ちゃうんですよね。ヴァイオリンがむせび泣くシェヘラザードのテーマ。ホール中にビンビン鳴り響くんですよね。しかも、このホールの音響とは全く異なった残響まで録音されている。こういうボリュームの設定をすると、当然のことながら、ダイナミックレンジが極端に狭くなって、クライマックスでは音が割れっぱなし。聞き続けるのが本当に辛い。
今日の映像はキーロフ・バレエの『シェヘラザード』。まだキーロフにいた頃のスヴェトラーナ・ザハロワとルジマトフです。
アンナ・パヴロワの『瀕死の白鳥』。たぶん映像と音楽は別ものじゃないかと思うんですが、映像は1907年にマリインスキー劇場で撮影されたもの。1922年には日本でも踊ったんだそうで、芥川龍之介が絶賛しています。彼女の死後20年間、マイヤ・プリセツカヤが別の振り付で踊るまで、誰も踊ろうとしなかったと言われています。
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