東京芸術劇場 J.シュトラウス 『こうもり』 ― 2014/02/21 17:35
大雪からちょうど1週間。屋上の雪はなくなりました。
一番日当たりがいい北側の花壇では、クロッカスが花盛り。
名残のミニバラ
まだ持ちこたえています、ストロベリー・アイス。
雪をかぶってもスミレは強いですね。
昨日2月20日は池袋の芸術劇場で『こうもり』を見てきました。この小屋がやっているシアターオペラというシリーズの7回目。去年は『カルメン』をやっていました。その前には『カヴァレリア・ルスティカーナ』なども見たことがあるような気がします。
ステージの上に簡単なセットを作り込み、歌手はそこで歌い演じます。1階席前方の客席を(5列ぐらいかな)取り払ってそこでオケが演奏。ここらへんはいつものやり方です。ただ、今回大道具を建て込んだらデデちゃんがいつも買っている2回のバルコニーからステージが見にくくなるというので、主宰者から「チケットを交換します」という電話があり、なんと2回中央の4列目の招待席に変更。この位置、オケを聞くのにはいいのかもしれませんが、オケの奥で歌っている声はかなり遠くなっちゃいます。やっぱりサイドの方が響きのバランスはずっといい。ちなみにデデちゃんがもともと持っていた席は、知らないオッサンが「お、空いてるぞ」って感じで座っていました。音はあっちの方が多分良かっただろうな。
最初のうちこんな風に感じていたんですが、芝居が進むにつれて次第に歌手も響きがわかってきたみたいで、途中からはかなり聴き応えのある声になってきました。ただ、オケと舞台が溶け合わないのは仕方ないのかなぁ。歌手も合唱もオケよりわずかに遅れて聞こえてきます。これもまあ段々慣れてくるんですが、なんか奇妙。
舞台は現代の東京。アイゼンシュタインもファルケもオーストリア人の証券ディーラー。ロザリンデは日本人妻。アルフレードはファッションデザイナーで、ロザリンデは彼の元モデル。つまりロザリンデをめぐる、アイゼンシュタインとアルフレードの三角関係とう視点が明確に描かれて、その大枠として「こうもりの復讐劇」があるという構造になっています。
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芸術劇場の宣伝ページから拝借。
第一幕、アイゼンシュタインの居室。

第二幕、セレブパーティの間。

第三幕、刑務所。
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台本から書き直したみたいですが、元のオペレッタにあった枝葉はカットして、現代のトレンディ・ドラマ(ちょっと古いか?)として芝居が進行します。イベントプロデューサーのオルロフスキーが主催するセレブパーティーの招待状は携帯電話やらメールで伝わります。アデーレは登場しますが、イーダは携帯メールの発信者として存在が間接的にほのめかされるだけで、実際には登場しません。そしてアイゼンシュタインの着信音は「こうもり」序曲だったりするわけで、至る所に笑いの仕掛けが施されていてなかなか面白い。
佐藤美晴という人が演出をしていたそうですが、なかなか才気煥発な舞台でした。この手の現代風読み替えは、無理してるなあって思うことが多いし、必然性を何ら感じられないものですが、この『こうもり』に関しては原作自体が当時のウィーンを舞台にして、享楽的人間像を描いているわけで、現代の東京に読み替えても全く違和感がなく、むしろ3幕のフロッシュが時事ネタで笑わせるような場面では、ホームレスのオッサンが登場したり、佐村河内に関する新聞の切り抜きが舞台上の掲示板に貼り出され、ピットには「ヒロシマ」のレコーディングをやった東京交響楽団が入っていたりと、まさに時宜に叶う設定だったと思います。ただ欲を言うと2幕のセレブパーティーの後半、パーティー会場が真っ暗になって全員が懐中電灯を持ってうろうろするあたりは、ちょっと演出のネタ切れかなって気がしました。
スタッフ&キャスト
出演
アイゼンシュタイン(証券ディーラー):ペーター・ボーディング(Bar)
ロザリンデ(日本人の妻):小川里美(Sop)
アデーレ(家政婦):小林沙羅(Sop)
ファルケ(証券ディーラー):セバスティアン・ハウプマン(Bar)
ブリント(日本人の弁護士):新海康仁(Ten)
フランク(警部):妻屋秀和(Bs)
オルロフスキー(イベントプロデューサー):タマラ・グーラ(Mez)
アルフレード(ファッションデザイナー):ジョン・健・ヌッツォ(Ten)
フロッシュ(警部補):西村雅彦(俳優)
2幕のスペシャルゲスト:メラニー・ホリディ
指揮:ハンス・リヒター
管弦楽:東京交響楽団
コーラス:武蔵野音楽大学(東京)
※キャストは予告なく変更となる場合がございます。ご了承ください。
演出・脚本
演出:佐藤美晴
脚本:アンティ・キャロン
指揮のハンス・リヒターは若き日のチェリビダッケかミケランジェリのような、いかにもって風貌ですが、出てくる音楽はどちらかというと凡庸。何か主張することはないみたいで、まあ、そこそこきれいにまとめてはいましたが、最初に感じたようにオケと歌のバランスなどはかなり荒削り。
アイゼンシュタインのボーディングはなかなか芸達者。風貌もトレンディ・ドラマの主役にぴったり。日本人妻の小川里美はイマイチ声の艶がなかったかなぁ。でも舞台映えのする立ち姿で、この公演にはぴったりのイメージ。アデーレの小林沙羅は、切れのある歌唱でおきゃんな女中を熱演。第3幕のアリアでは場をかっさらっていきました。ファルケは夜中のビジネスニュースに出てくるゴールドマンサックスだかモルガン・スタンレーだかのオッサンにそっくりで、声はイマイチでもちょっと髪が薄くなった風貌はよかったねえ。
オルロフスキーは普通かなり大袈裟な演技をする人が多いんですが、この日のグーラっていうメゾはなかな落ち着きのある歌と演技。私は気に入りました。アルフレードのジョン・健・ヌッツォ、ちょっと太った??? 声はいい。だけどもうちょっと「テノール馬鹿」っぽい雰囲気があればなあ。この日一番感心したのはフランクの妻屋秀和。魔笛のザラストロとか、ドン・カルロの宗教裁判長といった重々しい役柄を演じることが多い人ですが、コメディーをやってもうまいねぇ。いやあ堪能しました。それに引き替えフロッシュの西村雅彦はちょっとねぇ。コメディアンじゃないからこの役には全然はまっていないし、オペラ歌手の中に混じっちゃうと、声が貧弱過ぎるし、大声で台詞を言おうとしてもこもって通らないし、格段演技が上手いわけでもないし・・・かなりかわいそうな出来でした。この役はやっぱり日生劇場でやった坂上二郎の名演が忘れられないねぇ。今では吉本とか言って、「お笑い芸人」というカテゴリーに入る人々は腐るほどいるみたいですが、坂上二郎に匹敵するようなコメディアンはいるのかなぁ???
セレブパーティーには懐かしいメラニー・ホリデイが登場。客席の反応を見ると、彼女がお目当てで見に来た人も多かったように思えます。相変わらず存在自体に華があります。『プラター公園は花ざかり』などを歌って、ちょっと踊って、なかなか華やいだ舞台になりました。
現在のフォルクスオーパーのプリマドンナ。エファ・リントの歌。プラターと言えば『第三の男』の大観覧車。そう言えばこの曲、サービス精神旺盛なローベルト・シュトルツのメロディーだそうですね。
ヘルマン・プライ
でもウィーナーリートっていうとまずこれですよね。日生劇場で二郎さんも歌っていました。
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