花開く調べ 〜フィレンツェ〜 ― 2011/02/27 22:47
今日は汗ばむほどの陽気。オペラシティの近江楽堂で掲題の音楽会を聞いてきました。これはリコーダーの太田光子とチェンバロの平井み帆が続けている「イタリアバロック音楽の変遷」というコンサートシリーズの一つで、毎年2回ずつ開催して今回で16回目。
太田光子は昨年ひょんなことからデデちゃんちの音楽会に出演して、生き生きとした音楽を披露してくれたということもあって、この一年で5回ぐらい聞いたでしょうか。音色の美しさ、安定したテクニック、躍動感溢れる音楽作り、そして情緒纏綿たる語り口、どれをとっても一級品の音楽を聞かせてくれるリコーダー奏者です。
去年の7月はボローニャがテーマで、ウッチェッリーニ、ロッシ、ベッリンツァーニなどが演奏されましたが、今回のお題はフィレンツェ。なかなか場所で区切ってそこに由緒ある作曲家だけを集めるのも難しいもので、まあ、ちょっとでもかすっていればいいという関連づけでプログラムが組まれていました。
このシリーズではいつもやっていることなのでしょうか、前半は初期から中期バロックの音楽、後半はチェンバロのピッチを415Hzに変えて、18世紀の音楽が演奏されました。最初にフレスコバルディのカンツォン第6番と第2番。比較的耳にすることが多いのは2番の方だと思いますが、これをガナッシモデルのテナーで演奏。平尾(=山岡)重治製作の名器だと思います。太くてよく鳴る笛。初期バロックのオペラティックなテンポの変化や語り口が楽しい一曲。バッサーノの「何度も別れたい」によるディミニューションの原曲は、どっぷりルネサンスに浸かった4声部の合唱曲だと思います。その下3声をそのままチェンバロで弾き、一番上のパートを笛で吹いて、ディミニューションを楽しむという趣向の曲。ディミニューションというとガナッシの教則本やファン・エイク曲のように、音符を細分化して16分音符で埋め尽くすような装飾を思い浮かべますが、バッサーノの曲はもうちょっと大らかに歌って、音符の最後にヴァイオリン風の小粋な装飾を聞かせる感じ。たぶん演奏者には面白いのかもしれませんが、聞き手にはイマイチピンと来ない。というか、そもそもヴァイオリンで弾いてこそ効果がわかる曲なのではあるまいか。
ファルコニエーリのコレンテ、ブランル、甘き旋律の3曲の中では、最後の甘き旋律の語り口が絶妙。続いてファン・エイクの“笛の楽園”から「麗しのアマリッリ」。先ほどのディミニューションの話でもちょっと引き合いに出したエイクですが、このアマリッリの変奏曲では、第3変奏がよくある彼のスタイルじゃなくて、いかにもっていうイタリア風変奏になっています。アマリッリという曲自体カッチーニの記念碑的な旋律といってよいでしょう。そしてエイクもその国に敬意を表したんでしょう。続いて平井のチェンバロ独奏によるフレスコバルディの100のパルティータ。かなりきびきびとして、舞曲のリズムを強調した演奏に聞こえました。この曲の演奏には調律の問題が常について回るんですが、今日はそこらへんは深入りせずにさらっとやっちまったぜ、という感じ。
前半の最後はヴィヴィアーニのシンフォニア第2番。フレスコバルディよりも何倍もオペラティックに緩急が繰り返される曲で、レチタティーヴォあり、アリアあり、フーガありの楽しい作品。これを二人はまるでオペラの登場人物のように丁々発止と演じてくれました。
後半はピッチが低くなって、ブレッサンやステンズビーの笛を使った後期バロックの音楽。チェンバロ一台でやるのはちょっと大変。調律が長引いて中入りをもてあまし気味。後半最初のヴァレンタインのソナタというやつはどうも焦点が定まらない大曲。続いてチェンバロ独奏でスカルラッティのソナタト長調K.144とハ短調K.115。平井は毎回超絶技巧の作品にチャレンジするみたいですねぇ。その意気や良し。最後はヴェラチーニのソナタ第6番。定型的なソナタでありながら、第3楽章のテンポや気分の揺れ動きに特徴がある、いかにも流麗なヴァイオリン音楽って感じの一曲。ですが、この曲での太田の語り口は、笛で演奏しても聞き手の耳を惹きつけ納得させる凄みがありました。
チェンバロは野神俊哉作のイタリアン(2003年)。昨年7月と同じ楽器のようですが、今日は非常に良い響きでした(近江楽堂は、聞く位置やステージのセッティングによって音が全く変わってしまうので、実際の音色はよくわからないホールです)。野神作のイタリアンは経堂の「猫御殿」でも何回か聞いているような気がするんですが、あれとは別の楽器かな?
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