能『葵上』@所沢ミューズ ― 2024/08/24 19:27
今日はクソ暑い中所沢まで能を見に行ってきました。本日の最高気温35.9℃。いやあ嫌になりますねぇ。
演目は源氏物語で言うと葵帖。光源氏の正妻、葵の上が結婚10年目にしたやっと妊娠したというのに、光源氏の遊び相手、六条御息所の生霊が祟ってかなり面倒な目に遭うという、源氏物語前半のハイライト部分。葵の上というのも「葵」という帖名から名付けただけで、本名かどうかはよくわからない。とにかく光源氏12歳、元服の年に正妻として結婚させられた人。当時「葵」さんは16歳。左大臣家の「后がね」として育てられ、プライドも高く、光源氏とはなにかとすれ違いが多い北の方。光源氏はほんの幼少の頃に母親(桐壺更衣)を亡くして、その後は母親の面影、つまり「いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ」母親を女性の中に追い求め続ける、いわばマザコンの殿様。結婚10年目に光源氏の子供を身ごもったわけですが、おそらく肉体関係もほとんどなかったんじゃないのかなぁなんて推測します。結局は一粒種の夕霧の君を生んで間もなく身罷っています。
一方の六条御息所ってのも、元東宮のワイフ。若くして皇太子が死んじゃったんで当時は未亡人。光源氏よりは6つぐらい年上だったかな?要するに「いとやむことなき際」の人物。これがなかなか嫉妬深い。源氏からすればかなり初期の恋人で、源氏物語では馴れ初めはよくわからないんですが、気位が高く独占欲が強い御息所は、素直になれない押し殺した嫉妬心が生霊、死霊となって源氏の愛人に次々と襲いかかる。夕顔の「物の怪」を始めとして、葵では葵祭の車争ひの際に左大臣家の家来に屈辱を受けたと思いこみ、生霊となって妊娠中の葵の上に襲いかかる。御息所は死後も紫の上とか女三の宮などに取り憑いて源氏に恨み言を言い続ける。まあちょっとアレな性格の人物ですなぁ。源氏は、御息所と東宮との間に生まれた秋好中宮には流石に手を付けなかったんですが、それでも自分の六条院の秋の町に住まわせて、冷泉帝の中宮としての後見人になったとさ。
能の『葵上』は、前半シャーマンというか巫女あるいはイタコが六条御息所の恨みを語り始め、かつては皇太子妃だったのに、今じゃ光源氏も通ってこないと嘆き節になります。幕間狂言で横川の小聖を呼び出し、後半は般若の面をつけた六条御息所と横川の小聖との対決シーンとなります。鬼女の形相で角をはやした般若の面は有名ではありますが、それほど能楽では使われるものじゃないんだそうで、その代表が『葵上』、『道成寺』、それに『黒塚(安達原』。なかなか鬼女の面よろしゅうごさいました。能の『葵上』では山伏の装束を着た小聖が御息所に勝利して、生霊を成仏させるという結末だったんですが、源氏物語ではどうだったのかなぁ。葵の死と御息所の生霊の関係についてははっきりとは書かれていなかったような感じがします。
能装束がきれいでした。シテ(六条御息所)の車争ひをモチーフにした御所車の衣装を見ただけでも眼福。能楽堂の公演とは異なり、現代語の字幕もないし、現代語との対訳パンフレットもないし、かなり貧乏くさい公演でした。喋っている言葉はほぼわからい。チンプンカンプン。でも動きだけでも想像力を総動員して、ある程度は理解はできたのかな。
ツレ:朝日ノ巫女 新井麻衣子
シテ:六条御息所ノ生霊 遠藤喜久
ワキ:横川ノ小聖 野口能弘
ワキツレ:朱雀院ノ臣下 吉田祐一
アイ:下人 大蔵教義
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