今週は文楽ウィーク2023/02/14 19:57

昨日は5.5ミリとほんの僅かでしたが雨が降って地がうるおいました。今日は午前中はどんよりとした曇り空、午後からは日が出てきましたが、5メートルを超える北風が吹きつけて寒い一日でした。

現在隼町の国立劇場では「初代国立劇場さよなら公演」と銘打って、人形浄瑠璃三昧の公演を打っています。しかも近松門左衛門の代表作を揃えているというわけで、今日は『心中天の網島』を見て参りました。ベベン・ベン・ベンと腹に響く太棹の音色、情緒纏綿たる太夫の語り口、そして世話物とはいえ見どころ満載の人形芝居。この三位一体の総合芸術は絶やしてはいけない。そもそもの発祥の地大阪では橋本某がやけに冷たい仕打ちをしていますが、東京の国立劇場はほぼ満席の盛況でした。まあ大阪は文楽よりもしょせん吉本なんですね。

さてさて「天網恢恢疎にして漏らさず」という老子の言葉を外題に盛り込んだ『心中天の網島』ですが、去年(?)見た『曽根崎心中』に比べると近松の筆の走りが格段に進歩しています。『曽根崎心中』は遊女と生真面目な若者が絶対に現世では結ばれない定め故に、心中に向かって突き進んでいきます。『心中天の網島』の治兵衛は女房子供もいる。ところがこの女房(おさん)も芝居が進むにつれて、遊女小春に深く同情し、心中を思いとどまらせようと、自分のへそくりをそっくり差し出し、着物もかき集めて、亭主に小春を身請けさせようとする始末。さらにおさんと治兵衛はいとこ同士で、おさんの両親も健在で何かと治兵衛に口出しをする。治兵衛の兄(孫右衛門)も色々治兵衛の面倒を見て、時に治兵衛を諌め、必要とあれば金子も用意する。なんとも恵まれた親類縁者に囲まれて、あたしだったら「うざってぇなぁ」って怒りを顕にするところですが、治兵衛という人物は芝居の一方の主役でありながら、自分の石がない、いや医師がない、じゃなくて意思がフニャフニャとした人物でございます。一旦諦めた小春を、おさんが小春への同情から身請けするようにと言い出すと、治兵衛はすぐにそれに従って身請けの金を工面し始めます。

まあこういったかなり大人数の関係者一人ひとりの人情の機微を書き込んでいるので、かなりなが〜い人形芝居になっています。その中に、掛詞や、言葉遊びの類がてんこ盛りに詰め込まれて、ストーリーを追うのもなかなか難しい。でもいわゆる江戸時代の庶民の暮らしぶりやら人情を知る意味でも「世話物」は面白い。「二本差しが怖くて田楽が食えるか」っていう啖呵の語源もこの『心中天の網島』だったんですねぇ。

ちなみに国立劇場は今年の秋から取り壊しが始まって、2029年に新規オープンすることになっています。


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