3/1 フィリップ・ジャルスキー 《オルフェーオの物語》@オペラシティ2023/03/02 17:42

昨日はオペラシティでジャルスキーを聞いてきました。コロナがあったり、その前に来日したときには東北の震災があって、仙台のコンサートはキャンセルになったり、その前はとんでもない呼び屋に引っかかったり、なんか日本には縁が薄い人なのかなって気もしますが、まあ、やって来ました。おそらく昨日のコンサート一日限りだったと思われます。

オルフェーオの物語(La storia di Orfeo)と銘打って、17世紀の作曲家モンテヴェルディ、サルトーリオ、ロッシが作曲した『オルフェオ』のオペラから、モンテヴェルディを補う形で、適宜アリアやデュエットを取り入れてオルフェオのストーリーを完成させたものになっていました。もちろん世界最古のオペラと言われるモンテヴェルディの『オルフェーオ』ではありますが、オペラと言うにはあまりにもドラマトゥルギーが甘いということもあり、また5幕のオペラのうち、オルフェオは全幕に登場するのに、エウリディーチェは2幕しか登場せず、あとは伝聞で語らせるという手法で、エウリディーチェの存在感がかなり希薄です。このためロッシやサルトーリオの作曲したもので「オルフェーオとエウリディーチェ」の物語を再構築したという次第に思われました。

曲目はこのページにあります。30上演時間80分(休憩なし)ということで、演奏会の最初からかなりの意気込みで入っていました。久々に超デーハーなモンテヴェルディのトッカータを聞いたねぇ。アンサンブル・アルタセルセってのもなかなか切れ味鋭い楽隊。

結婚した二人の幸せいっぱいなアリアやデュエットが続きます。そして幸福の絶頂からエウリディーチェの死。モンテヴェルディでは伝言で語られた部分は、サルトーリオの「ああ、神々よ、渡しは死にます」が歌われました。エウリディーチェのエメーケ・バラートというソプラノはビブラート控えめで澄んだ歌声。なかなか聞かせてくれました。さらにサルトーリオの「エウリディーチェが死んだ」をオルフェオが歌って倒れます。「オルフェーオ、眠っているの?」とエウリディーチェの嘆き節が聞こえてきて、更に冥府下りへと繋がる趣向。ここらへんのパルラーレ・カンタンドの世界は、ほとんど夢見る如し。

続いてご本家モンテヴェルディの「冥界のシンフォニア」から「強力な霊」が続けて歌われさらに「冥界のシンフォニア」で締める、冥府三部作といった美しい場面。特に三途の川の渡守カロンテに「生者は川を渡れぬ」と冷たくあしらわれたオルフェーオが歌う「強力な霊」の変奏は見事でございました。再びサルトーリオに戻って冥界から地上に戻ろうとすると、「神々よ、私はなにを見ているの」とエウリディーチェが歌い出し、オルフェーオは「君を見てはいけないのだ」と答え、「振り返らないでね、愛しい人」とエウリディーチェ。ところがオルフェーオはたまらず振り返ってしまう。永遠に地上と冥界に引き裂かれた二人。オルフェーオは冥府へと流れるコキュトス川の入口が閉じているのを発見する。もはや今生の別れ。でも自分が死ねば冥府でエウリディーチェと再会できる。どうか死なせてくれ。ロッシのアリアで幕切れ。

オルフェーオの物語って当時の作曲家、台本作家にとって結末がなかなか難しかったんでしょうね。モンテヴェルディのオペラの初演時は、確かバッコスの信女たちにオルフェーオが八つ裂きにされるエンディングだったらしい。1609年の初版譜ではジョーヴェ(ゼウス)がオルフェーオを天に昇らせる、いわばオルフェーオ神格化のエンディングになっています。これはまあ、デウス・エクス・マキナの手法だったんでしょうが、現在普通に見られるエンディング。ギリシャ神話を元にして近代の入口付近の作曲家が作った曲を、現代に蘇らせる、なかなか稀有な一晩の体験でございました。

アンコールは『ポッペアの戴冠』から最後の二重唱「ただあなたを見つめ」