新国立劇場:サロメ2011/10/13 16:36

昨日(10月12日)は二国で『サロメ』を見てきました。舞台写真はこちらスタッフ&キャストはこちら


二国でエファーディング演出の『サロメ』は5回目ぐらい(?)の上演。これだけ繰り返し演じられたプロダクションは恐らく他にはないでしょう。適度に時代を超越した衣装や装置を使いながら、一方で芬々たるユダヤ臭が漂ってくるような神学者たちが登場するといった具合に、民族色や時代色にも配慮が行き届いており、とてもよく考えられた舞台です。

タイトルロールのエリカ・ズンネガルトは、スウェーデン出身の「可憐な」ソプラノ。とは言っても、インタビューにもある通りかなり遅咲きの人らしい。見た目はヨハナーン(洗礼者ヨハネ)の首を欲しがる魔性の女というよりも、「銀の皿に載せて、大好きなケーキを持ってきて」と駄々をこねる少女のよう。シュトラウスの妖艶で爛熟した、まさに世紀末的音楽とのギャップが舞台を一段と華やいだものにしてくれます。


映像があるものの中では、ロイヤルオペラのプロダクションのマリア・ユーイングは、彼女持ち前の表情や声の性格もあるんでしょうか、かなり「逝っちゃってる」サロメですね。このサロメは自分の母親や現在の父親との関係、ユダヤとローマの関係など、さまざまな現実のしがらみの中に生きていて、とりわけ父親を憎むあまり、いわば確信犯的にヨハナーンの死を望んでいる、そんな感じがします。ちなみにこの演出はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのピーター・ホール。実はユーイングの元旦那。

ズンネガルトのサロメは、ユーイングとはかなり違っています。ヨハナーンは凄くいい男なのに、自分に目もくれようとしない。もちろん口づけもさせてくれない。だから殺して首を持って来てくれれば、思う存分かわいがることができる。本当にそう信じ込んでいる少女のようなサロメです。殺してしまったら元も子もないというアンビバレントな状況すら認識していないみたいに無邪気です。フィレンツェ歌劇場で歌ったビデオがありました。いやあ、こういうサロメもありかなって思いましたねぇ。爛熟の極みのサウンドに乗って、うっとりとした顔で首を持ち上げ、キスするシーンなんか痺れました。


「7つのベールの踊り」もこの人ならではの説得力がありました。今まで何度か、ボンレスハムのような御御足のプリマドンナが踊りのような仕草をなさっていたのを拝見したことがありますが、正直に言っていかにヘロデ(大王の倅、ヘロデ・アンティパス)でもあんなものは見たくはないだろうと思いましたです、はい。でもこのズンネガルトの初々しさなら、このストーリーも納得いきます。下腹部から太股はそれなりに多少肉が付いていますけど、ブラジャーを取った胸は肋骨が見えて、おっぱいも少女のよう。

(ビアズリーの挿絵でも、7つのベールの踊りの楽隊は凄まじい形相をしています)

マーラー夫人が「7つのベールの踊り」は音楽的に弱いと言ったとか。旦那を棚に上げて、とんでもない言いがかりです。シュトラウスのオペラとしては初期の作品なんでしょうが、後期の作品を凌ぐほどの密度と華やかさがある音楽です。芝居のクライマックスに向けて銀の皿の上の生首をうっとり見つめるサロメの表情。うん、これはひょっとしたら凄いものを見ちまったのかもしれない。

ヨハナーンのヴェーグナーは美声で、容姿も申し分なし。恋するサロメに言い寄られながらも、「あの方が現れる・・・」なんて場違いな声を張り上げるもんだから、一層乙女の恋心を刺激してしまう、そういう矛盾した役どころをうまくこなしていたと思います。ヘロデのマックアリスターはちょっと弱かったかな。でも役柄がああいったものだし、それはそれで傷にはならなかったかな。ヘロディアスのシュヴァルツは結構なベテランですよね。歌っていない時にも、「さすが我が子」って感じでサロメを頼もしそうに見つめる表情がよかったなぁ。シリア軍の隊長でしたっけ、ナラボートを歌った望月哲也も幕開きの一場をキリッと引き締めていました。

尾高支配人の代演に立った指揮者のラルフ・ヴァイケルトはさすがに手慣れたもの。オーケストラがよく鳴っていただけじゃなく、妖艶な世紀末的音楽で聞く者を酔わせてくれました。またしても東フィルよかったですねぇ。ちなみにこのオペラではオーケストラにちょっと珍しい楽器が登場します。その名はヘッケルフォン

蛇足ですが、かつて岩波文庫は★一つ50円でした。子供の頃挿絵がたくさん入ってたった50円の『サロメ』は私の愛読書でした (=^^=)

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なんて伏せ字になっている『チャタレイ夫人』も古本屋で買いました (=^^=)

丸木戸佐渡の『悪徳の栄え』 は裁判が始まる前に初版でお買い上げ・・・こうして振り返ってみると、警察・検察ってつまらんことをやっていたものですねぇ。ちなみに『悪徳の栄え』は、読み終わって本棚に置いといたら、母親が持ってって読んでいたみたい。ひょっとして、我が家の愛読書だったのかな?

20年ぐらい前だったか、キーロフ・オペラの『炎の天使』の時には、上野駅の公園口から文化会館までの間に、テレビ・カメラがずらっと並んで、入っていく客を舐めるように撮影していました。中に入るといかにもって感じの私服がたくさん紛れ込んでいました。なんでわかるかっていうと、あの音楽が鳴っているのにあっちこっちで いびきをかいて寝てる奴がいるんだもん。しかも職業的なものなんでしょうねぇ。お巡りってのはホントに例外なく目つきが悪い。権力の側にいるっていう安心感があるんでしょうね、盛大にいびきをかいて寝ていたことを、恥ずかしいとも思わなければ、周りのお客さんに迷惑を掛けてすみませんという態度もさらさらないんですね。まさに国家権力の暴力装置と呼ぶにふさわしい連中。あきれた光景でした。