5/18 井上道義指揮の都響でサティとサン=サーンス@東京芸術劇場2021/05/19 11:26

井上道義が都響を振るのは10年ぶりとかナントカ。池袋ではよく振っているような印象ですが、読響のことが多かったのかな? 

東京芸術劇場;手前がバスターミナルで奥の明かりがついている三角形の建物(9秒あたり)

最初はサティのバレエ音楽「パラード」。ジャン・コクトーがサティーをそそのかしてバレエ音楽を作ろうって事になったんだそうだ。後にピカソも加わって舞台美術を担当した。1917年パリで初演。アンセルメが振ったそうだが、猛烈な騒動になったそうだ。内容的にはスラップスティック、あるいはドタバタ喜劇。サティーのイロニー、諧謔、「なんちゃって」精神がどうもパリでは受けなかったようだ。井上はそんな楽しいサティーの音楽を全身を使って表現していました。舞台の上にはビニールで囲った洗面器。何を始めるかと思いきや、演奏者は手のひらを広げて、バシャッ、バシャッと思い切り水を叩く。日常の騒音と律儀ななオーケストラとの出会い。かと思うと、ラックから吊るされたワインボトルのような打楽器を使って、ホントに美しい音色を紡ぎ出す。ピルトルが指揮者を狙って発射され、ウィンドマシンが唸りを上げる。こんなハチャメチャな音楽が奇妙な統一感をもって迫ってくるのにはびっくりしました。

二曲目は辻彩奈をソリストに迎えて、サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番。辻彩奈ってのは有名な人なのかな? GoogleのFEPが一発で変換したぞ。1997年生まれというから23か24ですね。東京音大出身。大学は池袋のジモティーですね。この女の子がいいヴァイオリンを聞かせてくれました。第1楽章の決然と鳴らされる出だしのソロ。あの1フレーズで聴衆の心を鷲掴み。第2楽章の優しく歌い上げる舟歌はヴェネツィアのゴンドラというよりは、天使の囁きのよう。絶妙な歌いまわしはとても若手とは思えない。第1楽章の入を彷彿とさせる第3楽章の毅然とした開始の鮮やかなこと。どの瞬間も音楽が弛緩することなく、鮮やかに艷やかに奏でられ、彼女の持って生まれた美音が響き渡る。オーケストラとの息の合わせ方も絶妙でした。やあ、いいヴァイオリン弾きに出会いました。

前半は黒いスーツに真っ赤な蝶ネクタイで登場した井上、後半は上下真っ黒なマオスーツに着替えて指揮台へ。曲目はサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。ゆっくりとした序奏に続いて弦楽器が奏でるザクザクっとした第1主題が、この曲全体に渡って繰り返し出現する、いわゆる「循環主題」。ひとしきり騒いで、やがて静まり、オルガンが登場して強くはないんだけど、腹の底に染み渡るような重低音を響かせます。ホントに久しぶりに芸術劇場のオルガンを聞きました。第2楽章のスケルツォはかっこよかったねぇ。井上も渾身の指揮ぶり。2楽章の後半はオルガンもボリューム全開で数少ない聴衆を圧倒的な音で包み込みました。

時節柄お客さんは半分をちょっと下回るくらいの入でしたが、久しぶりの音楽会に大満足。

参考までに