12.14 能『項羽』ほか@矢来能楽堂2025/12/15 12:47

昨日(12月14日)は矢来能楽堂で狂言『二九十八(にくじゅうはち)』と能『項羽』を見てきました。出演者等々はこちらのPDFの【第2部】を参照してください。写真は手前が項羽です。

この日の出し物にタイトルを付けると、さながら「醜女(しこめ)と美女」といったところ。狂言『二九十八(にくじゅうはち)』は、このあたりに住まいする男が妻を娶りたいと清水の観音に詣でる場面から始まります。清水の観音は「妻乞い観音」とも言われるほど縁結びでは知られた仏だったそうだ。じゃあ地主神社の立場はどうなる???なんて話は置いといて… お告げに従って男が西門にやってくると、衣を被った女に出会います。男の問いかけに歌を返す女。曰く「わが宿は春の日奈良の町の内風の当たらぬ里と尋ねよ」とのこと。男は女の住まいを、「春の日→春日→春日町」、そして「風の当たらぬ→室(むろ)→室町」つまり春日町と室町通りの交差点あたりと推測します。さらに女が答えた「ニク」という言葉から「2☓9=18」と考え、交差点から18軒目の家と割り出します。(現代の九九が少なくとも室町時代から唱えられていたんですねぇ)。このあたり室町幕府の名前の由来にもなったあたり。足利義満が「花御所」を開いて京都の中心部としたあたりです。男は金持ちの教養あふれる女を妻にしたと大喜び。三々九度の盃を終え、被っている衣を剥ごうとすると、女はものすごく嫌がります。それでも強引に剥ぐと…乙御前(おとごぜ)の面が。 femme fataleが必ずしも理想の女性とは限らないというお話。

能『項羽』は言わずと知れた勇猛果敢な楚の将軍。司馬遷の史記では、歴代皇帝の治績を称える本紀に、皇帝にはなれなかった項羽が何故か載せられています。彼程皇帝に近づいた人間ということで、本紀に名を連ねているんだと、高校時代に習った思い出があります。項羽は代々の軍事エリートの家系。対する劉邦は呑百姓出身の「遊び人」。劉邦は前線で戦う人よりも、偵察や、兵站の確保、食料の調達など、いわゆる「水を運ぶ人」を重視したと言われています。始皇帝が統一した中国でしたが、その統治も長くは続かず、項羽に敗れて秦は滅びます。なおも項羽は北方から劉邦は南から咸陽を狙いますが、広大な中国の中で劉邦が一歩先んじて漢中を抑え、函谷関をを封鎖して項羽の漢中進出を妨害します。その後の漢楚の攻防戦では漢の劉邦に攻め立てられ、文字通りの「四面楚歌」の状況に陥った項羽は烏江のほとり垓下で自らの首をはねて自害。その時の辞世の歌が、

力山を抜き 気世を蓋ふ
時利あらず 騅逝かず
騅の逝かざるを 奈何(いかん)すべき
虞や虞や 若(なんぢ)を奈何(いかん)せん

騅は項羽の愛馬。一日千里を駆け抜けたと言われています。
虞は虞美人のこと。項羽の愛妾。

ある日草刈り男が一日の業をなし終えて舟に乗って家路につこうとします。年老いた船頭は船賃を要求しますが、まあ、向こうに渡ってからでもいいや、といった態度。向こう岸に着いて、改めて船賃を求めますが、銭金の代わりに草刈り男が持っていたヒナゲシの花を所望します。虞美人が城壁から飛び降りて自害した後、その墓の土饅頭から生えてきたという花。虞美人草とも言いますね。虞美人草を見て思い出した船頭(前シテ)が、項羽の最後を語り始めます。いわゆる「四面楚歌」の場面。そして自らの首を刎ねる幕切れ。ここで中入り、狂言方のアイ吉田信海が見事な語りを聞かせてくれました。後場は舞台の正面に城壁を表す一畳台が置かれ、ツレの虞氏がその上から降りる事によって、城壁から身を投げたことが表現されます。後シテの項羽の亡霊は三叉の矛を振り回して虞氏の亡骸を探し、やがて垓下の戦いの最後の奮戦さながらに、舞台所狭しと踊り狂います。項羽の衣装もきらびやか。濃紺の袴に、朱色の羽織。上下ともにキンキラキンの刺繍がところ狭しと施されています。

笛の小野寺竜一っていう人がうまかったなぁ。表情豊かで場面に応じた音色、ビブラートが絶品でございました。大鼓の亀井洋佑という人は、掛け声の「いよ〜、お〜」ってのが、途中でファルセットに切り替えて2オクターブほどスキップするのが面白かったな。太鼓の梶谷英樹という人は太鼓なのに声はもっぱらファルセット。これら含めて囃子方がかなり面白かったですね。囃子方が主導しているのか、項羽の舞が熱を帯びるに従ってどんどんアッチェレランドして行き、項羽の足拍子も加わって観客も熱狂の渦に巻き込まれていく。いやあ楽しい能でした。

(余計なお話)1993年中国・香港・台湾合作映画『さらばさらば、わが愛/覇王別姫』は、項羽と虞美人の悲しい別れを劇中劇で見せてくれる映画でした。ちょうどいま大ヒット中の『国宝』と似た構成になっていますが、『覇王別姫』のほうがはるかに面白かったな。

ところで中国三大美女というと、春秋末の西施(せいし)、三国時代の(架空の人物)貂蝉(ちょうせん)、楊貴妃(ようきひ)。西施は「西施が顔(かんばせ)をなからしむ」の故事で有名。貂蝉は三国志の「美女連環の計」で董卓と呂布の仲を裂く工作をしたことで有名な美女。楊貴妃はご存じ長恨歌に「楊家女有り、初めて長成し」と歌われた玄宗皇帝の妃、傾国の美女。これに4人目の王昭君(おうしょうくん)を付け加えて四大美女という場合もあります。王昭君は漢末の後宮の女。匈奴の王に送る嫁として、後宮から一番醜い女を選びだしたら、この女性になっちまったとさ。そして5番目を付け加えると、ここで虞美人が登場します。

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昨日は7.7℃までしか気温が上がらず、昼過ぎまで冷たい雨が降っていました。一昨日の深夜から振り始めた雨はトータルで7ミリほど。ですが、先月からほとんど雨が降っていなかった東京ではまさに干天の慈雨。今日は一転気温はそこそこですが(11℃)、ドピーカンです。



シャルル・ド・ゴール。花に水玉が乗っています。


ストロベリー・アイス


ラ・フランス


モミジ


オレンジ・マザーズデイ


パレード


ハツユキカズラの紅葉