新国立劇場:『ローエングリン』 ― 2012/06/15 17:22
二国出演はチェネレントラのアリドーロを歌って以来だそうですが、国王ハインリヒのギュンター・グロイスベックはなかなか深みがある声で好演。リカルダ・メルベートは『コジ』のフィオルディリージ、『タンホイザー』のエリーザベトなどでお馴染みですが、その容姿と澄んだ声で、いかにもって感じのお姫様をやってました。でも、なんか演技が一本調子というのか、もうちょっと心の内なる葛藤を表現できないものかなって気はしました。テルラムントのグロホフスキーは、スカルピアやイアーゴのような深みのない、ちょっと馬鹿っぽい悪漢を熱演。オルトルートはこの芝居の中ではちょっと損な役回りですが、スサネ・レースマークが憎々しげな悪女をみごとに演じていたと思います。日本人では触れ役の萩原潤という人がよく通る輝かしい声を響かせていました。
お客さんのお目当ては、ローエングリンのクラウス・フロリアン・フォークトだったわけですが、さすがに立派な声。7年前に二国でホフマンを歌ったときには、ほとんど目立たなかった人ですけど、やっぱりはまり役っていうのがあるんでしょうねぇ。二国の『ホフマン物語』もいろいろ因縁があって、1回目の時はニクラウス/ミューズをエリーナ・ガランチャが歌っていたんですが、影が薄くて、オランピアの幸田浩子や、アントニアのアンネッテ・ダッシュの方が印象に残っていますねぇ。2回目のフォークトが歌ったときは、悪の4役を歌ったジェイムズ・モリスの方が主役より目立っていたしなぁ。
舞台写真のとおり、演出は可もなく不可もなく、音楽や芝居を邪魔しないだけもましな方だったんじゃないでしょうか。玉姫殿の演出さながらに、白鳥をデフォルメした吊りものに乗ってローエングリンが登場するあたりは、ちょっと失笑を買っていましたが、まあそれはそれでご愛嬌。去年のバイロイトがちょっとひどすぎたってこともありますけど、二国の演出は悪くはない。シュテークマンという人、二国では『オランダ人』や『魔弾の射手』も手がけていますが、群衆(合唱)の扱い方が独特で、物語の展開や主役の心理状態に合わせて、マスゲームのように動かすんですが、これがどうもわかりやすいという人もいれば、鼻につくって言う人もいて、なかなか難しい。どちらかというと、もうちょっと神(々)の視点から俯瞰して、絶妙な立ち位置を定められないものかって気はします。ただ、大詰めのドイツ国王とその兵士たちが奈落の底からせり上がってくる場面は迫力がありましたねぇ。さすが二国の舞台機構ならではの一場。最後に加藤清史郎の顔の縦横比を逆にしたような(つまり普通の顔の)子供が現れて幕。エルザって死ぬんじゃなかったっけ?
毎度のことながら、二国の合唱は凄いですねぇ。ワーグナーも『オランダ人』から『タンホイザー』あたりまでは合唱が大活躍しますから、もう本当に聴き応え十分。床がビリビリ振動するほどの声の迫力は凄い。このところ名演を繰り広げている東フィルですが、この日も迫力は十分。でしたがちょっとお疲れ気味? 管楽器にはミスが目立ちましたねぇ。全体を手堅くまとめたペーター・シュナイダーの職人芸も冴え渡っておりました。
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