『殺生石』&『鞍馬天狗』@矢来能楽堂 ― 2026/03/02 12:26
昨日は春の陽気の中、神楽坂の矢来能楽堂で能と狂言を見てきました。としま能の会というというのが主催していて、「妖怪と精霊」というタイトルがついていました。
なかなか興味深いタイトルです。マチネとソワレの2部構成で昼夜通しで見てきました。開幕狂言は、野村万蔵、万之丞、拳之介親子で『蚊相撲』。あらすじはここ。万蔵昨年末に秘曲を演じたそうですが(野村万蔵家・狂言の最高秘曲に挑む!)、この日はコミカルでちょっと間抜けな御殿様。万之丞も同じく「花子」という大曲を演じて話題になりましたが、この日は狂言の原点、太郎冠者。大名が蚊の妖怪と相撲を取るんですが、ストローのような吸い口で大名の顔や喉を刺すと、大名は思わずクラクラっとめまいを起こす。それではと、大きな渋団扇を手にして蚊を扇ぐと一瞬蚊はたじろぎますが、隙をついて大名の血を吸います。二番続けて大名の負け。怒った大名は行司役の太郎冠者に八つ当たりして、投げ飛ばしたところでおしまい。最後はスラップスティックな終わり方でしが。大名と太郎冠者の軽妙な言葉のやり取りが面白かったですねぇ。
二曲目は能で『殺生石』。お馴染み那須野が原の「九尾の狐」伝説です。唐天竺で傾国の美女を演じ、時の王を破滅に導いた「九尾の狐」。日本では鳥羽院に取り憑いて「玉藻の前」という名で入内します。ところが陰陽師の安倍泰成に見破られ、那須まで逃げてそこで討ち取られる。ただ狐の魂百までというのか、石に取り付いて飛ぶ鳥を殺しております。殺生石は那須湯本バス停のちょっと上辺り、硫黄の臭いが立ち込めていますが、殺生石と言われているものは、3年前だったか真っ二つに割れちゃったそうですねぇ。まずワキの玄翁和尚を演じた野口能弘という人が、惚れ惚れするほど艶があって深い声。一発でしびれちゃいました。シテの観世喜正も負けず劣らずの美声。石が割れて狐が姿を現すんですが、ここで特殊演出。普通は赤っぽい頭髪なんですが、あえて真っ白の頭髪にして、ちょっと女っぽいあでやかさを表現しておりました。白い狐が演台の上で足を踏み鳴らし、囃子方が掛け声とともに鼓や太鼓を打ち鳴らすあたり、ワクワクしましたねぇ。それから、頭の上に長さ20センチほどの走る九尾の狐をかたどったエンブレムを載せていたのが可愛かったな。
ここでおよそ2時間の休憩。コーヒーでもってことで喫茶店を探して神楽坂をウロウロしましたが、外国人を中心に観光客が多くて、喫茶店もなかなか入るのに苦労しました。さてマチネは妖怪がテーマでしたが、ソワレは精霊がテーマ。どちらも人ならざる者ですが、人をだましたり、人に害を及ぼすのが妖怪、人を勇気づけ人の役に立つのが精霊なのかなと勝手に解釈しております。
夜の部はまず狂言「蟹山伏」。シテの山伏は野村万之丞、荷物持ち(強力)は石井康太、蟹の精が河野佑紀。あらすじはここ。修行を終えた行者の行く手にゴロゴロゴロという音がして蟹の精が現れます。両手の親指と人差し指を閉じたり開いたりして、手を伸ばしゆっくり左右に動かすと、不思議と蟹の動きのように見えてきます。強力が耳を挟まれ、山伏が呪文を唱えたり印を結んだり、数珠を揉んだりして強力を助けようとしますが、かえって蟹の鋏が食い込んできます。つまり行者の法力も全く通じないばかりか、行者の耳も挟まれて、最後には蟹に投げ飛ばされてしまいます。真ん中に蟹を挟んで二人が耳を挟まれ、コミカルに飛び跳ねる仕草は楽しかったですねぇ。まあ山伏ってのは役に立たない奴だと、蟹が立証してくれたという意味で、人の役に立つ精霊ということなんでしょう。
この日の最後は能『鞍馬天狗』。シテの山伏と大天狗は観世喜正、牛若丸は坂賀子、アイの能力は狂言方の野村万蔵、その他大勢。あらすじはここらへん。たくさんの稚児をつれた鞍馬の坊主たちが花見をしていると、山伏の姿を見咎めて、坊主と稚児たちは立ち去ります。一人を残して。残った一人が牛若丸。その他大勢の稚児は平家の子弟。というわけで、鞍馬の天狗さんが、平家追討のため牛若に兵法を伝授します。ここで、狂言方の野村万蔵が立て板に水のごとく、滑舌を遺憾無く発揮して前場の物語、そして修行に励む牛若の様子を語ります。狂言方ですから、完全な古文とは異なり、ある程度は耳から聞き取ることが出来ます。この語りはすごかったねぇ。そして、子方の牛若丸が薙刀を持って登場。ん(?)薙刀。弁慶か巴御前の持ち物だと思っていたけど。年の頃は小学校4年ぐらい。10歳ぐらいの女の子です。ポニーテールにまとめた髪が、若武者のように気品溢れる立ち姿。セリフというのか、謡のようなちょっと節の付いた語り口を聞かせるんですが、女孺(じょじゅ、めのわらわ)のものすごく甲高い声色で、微笑ましい。さてさて、後場の見どころはなんといっても大天狗の舞。ん、日本酒みたい。天狗の羽団扇を手にした、迫力満点の踊りでございました。
最後に、昼・夜とも出演していた笛方の杉信太朗という人がうまかったなぁ。耳をつんざくヒシギ、甲呂特に低音部の揺らぎ、なんとも言えないいい音でございました。
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