国性爺合戦2023/02/18 14:55

文楽ウィークの最後は『国性爺合戦』。お馴染み清朝に抵抗して明朝再興を掲げて戦った鄭成功のお話。1715年近松の作ですが、大坂の竹本座で17ヶ月のロングラン上演記録を作ったそうだ。当時の大坂人の8割は見に行った勘定。

韃靼に攻められている明国の窮状を救わんがため、日本に逃げていた老一官は日本人の妻と息子の和藤内を伴って明国に渡ります。韃靼と言ってもいわゆるタタールというよりは、北方の騎馬民族一般を指して言っているようで、実際は清(満州族)のことです。幕が上がると3人の姿。二手に分かれて獅子ヶ城を目指して旅立ちます。ここで芝居の最初から大スペクタクル。韃靼兵の虎狩りの場面に遭遇します。老いた母親と和藤内は、勢子に追い出された虎とご対面。虎は人間がまるごと入った着ぐるみです。まるで猫のような仕草でナメナメしたり、客席に向かって吠えてみたり、ついには義太夫語りの席にちょっかいを出して、太夫の扇子で頭を叩かれたり。まあ楽しい。着ぐるみで動き回るのも大変だと思いますが、いかにもという仕草が場内の笑いを誘っておりました。虎は和藤内の持つ伊勢神宮の守札を見せると、怯んでおとなしくなります。和藤内に手懐けられた虎は、韃靼兵に襲いかかり、たまらず兵士は和藤内に助けを求めます。和藤内は韃靼兵を手下に加え、獅子ヶ城に向かいます。

獅子ヶ城は甘輝将軍の城。老一官が明にいた頃もうけた娘・錦祥女は甘輝に嫁いています。錦祥女を通じて甘輝将軍を味方につけようという算段。和藤内にとっては錦祥女は義理の姉ということになります。甘輝将軍というのはどうも明や韃靼の正規軍ではなくて、いわゆる軍閥を率いているようです。現在は韃靼王に忠誠を誓っているらしい。老一官が楼門に姿を見せた錦祥女と涙の対面。しかし韃靼の警備が堅固で、老婆(錦祥女の継母)だけが縄をかけた姿で城内に入ることを許されます。城外にいる和藤内と老一官には、城内から流れ出す川に白粉を流したら味方につく、紅を流したら敵となると合図を決めておきました。

甘輝が城に帰ってきて老婆からの話を聞きます。しかし首尾悪しく甘輝は「いったん韃靼の王に忠誠を誓った者が、妻の縁で味方になっては義が立たない。そう言われないようにするためには、味方になるのなら、錦祥女を殺してからだ」と義理と人情の板挟み。わからんことを言い出して錦祥女を殺そうとします。錦祥女は紅を流します。実はこの紅、錦祥女が自害した血だった。その後を追って、和藤内の母(老婆)も自害。事ここに及んで妻の情に打たれた甘輝は韃靼征伐を決意。和藤内に「延平王国性爺鄭成功」の名を与えます。延平というのが現在の台湾らしいですね。でも果たして台湾に虎がいるのか。矛盾に満ち溢れた物語です。

最後場の将軍の衣装が素晴らしかった。一度楽屋に引っ込んで、多分人形を持ち替えて出てきたんでしょうが、まあ、金襴緞子、キンキラキンの見事な衣装。京劇よりももっと派手だったかも。話としては悲劇かと思いますが、最初の虎狩りの場面から最後の紅流しの段まで、極上のエンターテインメントを見せてくれました。近松門左衛門すごいぞ。

ところでお座敷遊びの「とらとら」。この芝居から作られたものらしい。衝立で仕切られたところに芸者と客が一人ずつ入り、杖をついた老婆、虎、和藤内のいずれかの格好をして、衝立から顔をだす。老婆は虎に食べられ、虎は和藤内に屈服し、和藤内は自分の母親ですから老婆に頭が上がらないという、まあ三すくみのじゃんけんみたいな遊びです。負けた方は盃を一杯飲み干すという罰ゲーム。ところで虎狩りというと秀吉の朝鮮出兵に付いていった加藤清正が有名で、和藤内の代わりに加藤清正とする遊び方もあるらしいんですが、それだとじゃんけんにならないですね。それに清正は鉄砲で虎を撃ったそうだ。

千里走るよな藪(やぶ)の中を
皆さん覗いてごろうじませ
金の鉢巻きタスキ
和藤内がえんやらやと
捕らえし獣(けだもの)は
とらとーら とーらとら
とらとーら とーらとら
とらとーら とーらとら




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ちょっと寒い日もありましたが、日に日に暖かくなってきました。今日の最高気温は15℃を超えています。明日は19℃まで上がるんだとか。



少しずつ芝の緑が戻ってきました。






クロッカス


黄色も咲き始めました。






レディ・ヒリンドン