女殺油地獄2023/02/17 12:05

文楽ウィーク第2弾は『女殺油地獄』。近松の傑作だとは思うんですが、あくまでも人形浄瑠璃でやった場合の話。歌舞伎やら、映画やらだとちょっと生々し過ぎて見てられないかもしれない。


文楽の書き割りも寝屋川沿いに一面の黄色い菜の花が咲き誇っています。お染久松の心中ものとは別ですが、やっぱり野崎詣りは菜の花がつきもの。河内屋の与兵衛もお詣りに。とは言っても信心あっての野崎詣でではなく、馴染みの女郎が会津の客に連れ出されていると聞きつけてちょっかいを出そうとやってきた次第。油屋の与兵衛は実の父親が死んで、番頭上がりの徳兵衛が継父。自分に対して厳しいことを言えないのをこれ幸いと、放蕩三昧の生活を送っています。野崎詣りの道中、喧嘩になり、侍に泥を浴びせてしまいます。馬に乗った侍の従者が伯父の山本森右衛門。かわいい甥っ子ではありますが、参拝の帰りに手討ちにしてやると、与兵衛を脅して立ち去ります。怖くてたまらない与兵衛は、たまたまお詣りに来ていた同じ町内の油屋である豊島屋のお吉に助けを求めます。お吉は与兵衛の泥汚れを洗ってやり、与兵衛は一人とぼとぼ大坂に帰っていきます。まあ、要するに喧嘩っ早い性格と、豊島屋のお吉の世話焼き癖が今後の展開へと繋がります。

河内屋では与兵衛の兄・太兵衛がやって来て、野崎詣りの一件により伯父が職を辞して浪人になったと告げます。徳兵衛には継子だからと与兵衛を甘やかせず、勘当すべきと言って帰っていきます。入れ替わりに与兵衛がやって来て、伯父が主の金に手を付けたので弁償するために銀三貫目が必要だと言い出します。先に太兵衛の話を聞いていた徳兵衛は相手にしませんでしたが、かえって与兵衛に足蹴にされます。さらに帰ってきた実の母親のお沢も踏みつける始末。徳兵衛はお世話になった先代のことを思って我慢してきましたが、事ここに至って与兵衛を勘当します。

豊島屋の段。端午の節句の前日、集金に忙しいお吉の旦那七左衛門。立ったまま一杯引っ掛けて、次の得意先へと出かけていきます。立呑は野辺送りの風習。不吉な予感が漂います。与兵衛は豊島屋の門口で借金取りに出会ってしまいます。銀二百匁(20万円)が明日になると五倍になるという約束。借金取りと別れ、豊島屋を覗いていると、徳兵衛がやってきてお吉に三百文(数千円)の銭を渡し、与兵衛に性根を入れ替えて店に戻ってきてほしいと諭してほしいと願います。さらにお沢(実母)もやって来ます。そのたもとからは節句の粽と幾ばくかの銭がこぼれ落ちます。お沢も与兵衛を諦めきれなかったのです。二人の親心にうたれたお吉は涙します。

そして二人が帰ったのを見計らって与兵衛がin。お吉は与兵衛の両親から預かった銭と粽を渡します。与兵衛はそんなはした金じゃ足らん。二百匁貸してほしいとせがみます。断られた与兵衛は、こんどは油を貸してほしいと言います。お吉が油を計りに桶に屈み込むと、そこにはキラリと光る与兵衛の脇差。油桶をひっくり返して逃げ惑うお吉。油に足を取られて二人は滑ったり転んだり。舞台の端から端までツーっと滑ったり、足元を滑らしてもんどり打って倒れたり。いやあ一大スペクタクル。与兵衛の人形遣いは桐竹勘十郎でしたが、人形を抱え込んで「ハアハア」肩で息をしていました。

お吉を殺した与兵衛は、集金の金を見つけて借金を返済するかと思いきや、そのまま遊郭へgo。

ピカレスクロマンでもない、不条理劇でもない、小悪党の没落劇とでも言うべきか。最後の油まみれの場面は、滑稽でもあり、スペクタクルでもあったんですが、何というか芝居としての面白みとか主人公への思い入れとか共感といった点では、全く異次元のよくわからん芝居でございました。