11月2日 キーシン@所沢2021/11/03 15:35

キーシン坊やを聴きに所沢まで行ってきました。この人を東京で聞くとS席が2万円。所沢だとサントリーのRBに相当する上手側2階一列の席が9千円というわけで、航空公園まで行って参りました。

思えば15歳だったか初来日初日、昭和女子大の講堂で聞いたピアノの記憶が今でも鮮明に思い出されます。あのリリシズムを求めて、初来日から二十歳まではほとんど毎回来日のたびに聞いてきました。ところが、二十歳になった頃ゴルバチョフの来日に合わせて、池袋でリサイタルをやった頃から完全に別物になってしまった。その時の演奏が残されています。



まさにこれを聞いて、あの新鮮な果実から滴る果汁のようなリリカルな味わいはどうしちゃったんだろうと、大いに疑問に思ったわけです。まあ肉体的に腕力がついてきて大きな音を鳴らしたいという欲求を持つようになったのはわかります。でもやっている音楽がまるで違う。神童とか天才少年とか言われたピアニストも、やがては変わらなくちゃいけない時期が来る。キーシン坊やもそんな歳になったのかな。その帰り、「あと30年ぐらいしたらもう一度聞いてみようかな」なんて思った次第でございます。

それからちょうど30年経って昨日聞いてきました。まずタウジヒ編曲のトッカータとフーガニ短調。ピアノに怒りをぶちまけるかのような轟音。タウジヒの編曲がかなりヘンテコリンなのは確かだけど、別にピアノに八つ当たりすることはないだろう。石造りの大聖堂をブルドーザーでぶち壊しているようだ。2曲目はモーツァルトのアダージョロ短調。右手のメロディと左手の伴奏という構図を押し通す子供のおさらい会の演奏みたい。ただしメロディーラインは徹底してフォルテで叩きまくる。3曲目ベートーヴェンのソナタ第31番。晩年のベートーヴェンの響きはどんどん透明になっていくんですが、キーシン坊やは相変わらずの単調な演奏。第3楽章の幻想的な雰囲気もとってつけたよう。フーガの音が重なってくると、和音連打ような弾き方になり、聞く方も辟易としてくる。

後半はショパンのマズルカを7曲。有名なOp.7-1。キツツキのように一拍ごとに体を前後に揺すってリズムを取る。まるでこれ。マズルカってのはそうじゃないだろ。まあそんなのを7曲も連続して聞かされると、こちらもだんだん忍耐が切れてくる。で最後にアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ。それがまさにこんな演奏。 

思うにこの人、子供の頃から戦い続けて来たんでしょうねぇ。アンナ先生まで一族のようになっちゃって、必死に稼いできたんでしょう。キーシン坊やを見ると、角兵衛獅子を思い出します。そんな幼少期を過ごした坊やですが、二十歳を過ぎた頃ふと気づいたんじゃないかな。どうやったら聴衆をうまく手球に取れるか。その結論がまずでかい音で驚かせる。それから複雑な音楽をできるだけわかりやすく、単純に弾いてみせる。今の華麗なる大ポロネーズのように、一切のニュアンスを取り除き、強いか弱いかだけの二項対立的な演奏に徹することで、聞き手の喝采を受けられるんだ、そんな事実を知ってしまったようだ。音色のバリエーションやフォルテとピアノの間の無限のグラデーションなんて、どうせ聴衆には理解できる訳が無い。要するに素人ウケする演奏に徹して生きてきたわけ。そう言う意味ではロシアのピアニストじゃなくて典型的なアメリカのピアニストに変身を遂げたとも言えるでしょう。二十歳過ぎたらただの人になってしまう神童が多い中、稼ぐ術を身につけた世渡り上手な坊やになったのかな。放っておくと1時間でもアンコールを弾き続けるんだそうだが、聴衆にサービスし続けないと忘れ去られるんじゃないか、そんな恐怖心の現れなんじゃないだろうか。2曲ほどアンコールを聞いて出てきました。

余談ですが、数年前にキーシン坊や結婚したんだそうだ。ニューヨークでエマヌエル・カントのような生活を送っているというお話も。


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今日は22℃を超えて汗ばむほどの陽気。天気もピーカンでございます。




パレード


パパメイアン




芳純




レディ・ヒリンドン


ブルー・ムーン


カワラナデシコ


中央は芳純




オレンジ・マザーズデイ


ヴィオリーナ






ムーン・シャドウ


フレグラント・アプリコット




純白のアンナプルナ


大抵の白薔薇はちょっとクリーム色がかっていたりするんですが、これは真っ白。


ラ・フランス


マルコ・ポーロ


楽園(手前)とムーン・シャドウ


クリムゾン・グローリー





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