10/6 チェネレントラ@新国立劇場2021/10/07 17:05

昨日は二国でロッシーニの『チェネレントラ』を見てきました。スタッフ、キャスト、動画、シノプシスなどはこちら。 舞台写真はここ

今回は新演出です。演出の粟國淳という人がなかなか想像力と創造力ともに豊かな人で、根本的な読み替え演出にも関わらず大いに楽しめました。まずチェネレントラ(シンデレラ)のストーリーはそのまま舞台上で繰り広げられます。その外枠として、王子ドン・ラミーロは実は映画プロデューサーのセガレ、王子の家庭教師アリドーロは映画監督という設定があり、王子は映画の中で自分と結婚するヒロインを探しているという枠組みになっています。さらにその花嫁探しを、『カメラを止めるな!』よろしくずっと撮り続けているクレーンに乗ったカメラマンやガンマイクを掲げた撮影所の人々が多数出てきます。王族にとって最重要な国事行為は子作り。何しろこれをサボると自分たちのレゾン・デートルがなくなってしまうわけですから。それを記録に留めるために多数のスタッフがキャメラを回し続けています。また雑多なエキストラとおぼしき人々、インディアンやガンマン、張りぼてのサボテンも登場。ローマのチネチッタの混沌としたイメージが舞台上で繰り広げられます。もちろん大道具もそこらへんにわんさかとありますから、次から次へと装置が目まぐるしく移動して、お客さんを飽きさせません。

1950年代頃の撮影所の風景が蘇ってきたような舞台でした。そしてそこには古き良き時代に思いを馳せるノスタルジーの気分が漂っておりました。そうあのフェリーニの世界。あるいはヴィスコンティの時代。またチネチッタでは『ベン・ハー』などのアメリカ映画も撮影されたことで有名ですが、そこを越えて、はるか西の方ハリウッドに対する憧れの気持ちもかなり込められていたのかなぁ。日本でいうと宝塚少女歌劇のフィナーレを彷彿とさせる大階段やら群舞やら。ジーグフェルド・フォリーズの世界かなぁ。『ニュー・シネマ・パラダイス』の映画礼賛にも近いかな。

チェネレントラの起源と思われる伝説は世界中に500とも700とも言われています。まあ、日本の落窪物語なんかもそのうちに入るんでしょう。フランスの詩人ペローが書いた『サンドリヨン』あたりが、ディズニーの映画になって日本で固定された、「耐える女がいつか報われる」的なストーリーは非常に受け身な発想。「いつか王子様が白馬に乗ってやって来る」的な発想です。それに対して、ロッシーニのチェネレントラ(アンジェリーナ)は19世紀の初頭でありながら、自立する女です。かぼちゃの馬車も、ガラスの靴も出てきません。真夜中12時に魔法が解けるといった縛りもありません。自分の意志で道を切り拓く女の姿が見て取れます。アンジェリーナは極悪非道な父親や姉たちに向かって、堂々と「私も舞踏会に連れてって」と主張します。父親や姉たちが王子ラミーロに変装したダンディーニに熱心に入れ揚げているときにも、アンジェリーナは冷静に本物の王子を看破します。

チェネレントラはまた復讐劇でもあります。散々自分を虐げてきた父親と2人の姉を、どうしてくれようぞ。グリム童話では、王子との結婚式でアッシェンプッテル(シンデレラ)に取り入ろうとした姉たちは鳩に目を突かれて失明します。これは彼女が意図的した復讐ではなく、水戸黄門的な勧善懲悪の世界。ロッシーニのチェネレントラは最後に「苦しみと涙のうちに生まれ」という長大なロンドを歌って、父親と姉たちを許します。でも「許す」ってのは最も残酷な復讐かもしれませんね。

音楽的にはちょっとイマイチだったかな。歌手がいかにも小者。アジリタを不安なくこなせる歌手がほとんどいなくなってるのかな。オケもなかなか乗り切れず、特に管楽器のタンギングが最初のうちかなり怪しかった。やっぱりロッシーニは歯切れが良くなくっちゃ。男声合唱は相変わらず素晴らしかったけど、オケと噛み合わなかったのは指揮者のせいかな?

参考までに前回(2009年)上演されたジャン=ピエール・ポネル演出の舞台写真。 この時は、ラミーロがアントニーノ・シラグーザ、ダンディーニがロベルト・デ・カンディア、ドン・マニフィコがブルーノ・デ・シモーネ、アンジェリーナがヴェッセリーナ・カサロヴァ、アリドーロがギュンター・グロイスベック、その他、幸田浩子なんかもお姉さんの役を歌っていました。隔世の感があります。

メトの上演。最後の「苦しみと涙のうちに生まれ」のアリア。アンジェリーナはエリーナ・ガランチャ。



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今日は曇り空。最高気温も24.1℃と久々に夏日から解放されました。


昨日は蕾だったドゥフトゴルト(黄金の香り)が開きました。


シャルル・ド・ゴール


ストロベリー・アイス


マツムシソウ


パレード




ホワイト・クリスマスが咲きそうです。

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