1/21 フランチェスコ・コルティ指揮のイル・ポモドーロ@紀尾井ホール ― 2025/01/22 12:34
昨日(1月21日)は紀尾井ホールでフランチェスコ・コルティの指揮とチェンバロでイル・ポモドーロの演奏会を聞いてきました。リンゴは西洋では物議を醸す存在。例の「パリスの審判」のお話では、宴席に招かれなかった不和の女神エリスが怒って、「最も美しい女神へ」と書かれた黄金のリンゴを宴席に放り込んだことから宴席は大混乱。アプロディーテ(ローマ神話ではウェヌス)、アテーナー、ゼウスの妻のヘーラーが史上最古の美人コンテストに名乗りを上げ、トロイ戦争が勃発します。時代が下って聖書の創世記では、アダムとイヴがヘビにそそのかされて「知恵の木の実」を食ってしまったとあります。実際に「知恵の木の実」なるものが果たしてリンゴなのかどうかは聖書には書いてないらしい。でも中東の地域でリンゴが育つとは考えづらい。リンゴにとっては災難だ。
イル・ポモドーロ(黄金のリンゴ)という団体名称は1666年に作曲されたチェスティのオペラから名付けられたそうだ。スペイン王レオポルド1世とマルガリータ・テレサの結婚に際して上演された、絢爛豪華な芝居だったらしい。おそらくこのグループは初来日じゃないかと思いますが、なかなかやるじゃないかって感じ。
初っ端からバッハのチェンバロ協奏曲第1番ニ短調。ユニゾンで力強く始まる冒頭から聞き手の耳を捉えて放さない緊張感がただならない。華麗な音の渦、各パート一人ずつの薄い編成だが、出るところ引っ込むところのメリハリが際立って、音の充実感に溢れていました。その次のC.P.E.バッハのフルート協奏曲ニ長調。チェンバロ協奏曲として知られていた曲だが、最近になって第二次大戦中に持ち出されてキエフの図書館に眠っていた筆写譜が発見されて、フルート協奏曲と認定されたんだとか。確かにベルリンのフリードリヒ大王の楽隊に雇われていたC.P.E.バッハですから、チェンバロ協奏曲よりはフルート協奏曲のほうがふさわしいのかもしれませんが、なんとも言えばいいのか、要するに駄曲。C.P.E.バッハのきらびやかなロココの響きはしますが、ひらめきや驚きは感じられない。
後半はまずゲオルク・ベンダのチェンバロ協奏曲ヘ短調。ボヘミアの出身でやはりプロイセンの宮廷に出入りしていたC.P.E.バッハの後輩ということらしいが、これはなかなか素晴らしい作品。たしか中野振一郎がずいぶん昔に弾いていたと思いますが、冒頭から激しく突き進む強烈な音の洪水。かと思うとふっと立ち止まった次の瞬間、再び強烈なビートを刻むといった変化に富んだ楽想が面白かったですねぇ。
最後はバッハのブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調。チェンバロ協奏曲とは異なり、3人の独奏楽器が親密に対話をするコンチェルト。2ndヴァイオリンを欠いた編成ですが、tuttiの迫力はなかなかのもの。第1楽章のチェンバロのカデンツァはコルティの手練手管の限りを尽くした妙技が存分に味わえました。普通はちょっと退屈な第2楽章ですが、ヴァイオリン、フルート、チェンバロのトリオが穏やかに語り交わして、幸せの時を刻んでいきます。そしてジーグのように弾む第3楽章。対位法の極致とも言える作品ですが、実に喜ばしく美しく弾むようなダンスのリズムが心地よい演奏でした。
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