レイフ・オヴェ・アンスネス ピアノリサイタル @ミューズ2016/11/23 22:56

本日(11月23日)は所沢まで遠征。ノルウェイのピアニスト、アンスネスを聞いてきました。初めて聞いたのはかれこれ20年ぐらい前だったような… グリーグのコンチェルトをいともたやすく弾きこなすとか言う触れ込みだったと思う。CDはキタエンコ指揮のベルゲンフィルだったと思います。ベルゲンフィルってのも一時期ものすごく澄み切った音楽をやっていました。今はどうなってんだろう?

20年前はできたばかりの紀尾井ホールで、シューマンやらショパンを弾いたと思うんですが、ほとんど記憶にない。指がよく回っているのはわかるけど、イマイチ感興に乏しいというのか、要するにうまいけど面白くないピアニストだと思って、それ以来全く聞かなかったですねぇ。

で、去年の5月、久々にアンスネスの名前を目にして、聞きに行きました。マラー・チャンバーオーケストラというのをバックに、ベートーヴェンのコンチェルトを弾き振り。これはオケは下手くそだったけど、ピアノはなかなか聞かせるじゃないかってわけで、ちょっと見直しました。

そして今回。所沢まで出かけてよかったですよ。まずシューベルトの3つのピアノ曲(D946)。聞いたことがあるような、ないような。珍しい曲ですが、内容は極上品。最晩年の遺作みたいなもんですが、長調と短調の間をあてどもなくさすらうような第1番。全編歌に溢れた第2番。結構賑やかな第3番と、三つ通して聞くとソナタ1曲分ぐらいの重みがあります。次にシベリウスを4曲。若書きの「6つの即興曲」から第5番。シベリウスが印象派に傾倒していた頃のものでしょう。煌めくような分散和音の中からスケールの大きなメロディが聞こえてきます。続いて「3つのソナチネ」第1番。叙情味に溢れる透明な小品。「2つのロンディーノ」第2番は華やかな小品。最後に「10の小品」からロマンス。これは短いながらも感動的なコラールが高らかに歌われる、フィンランディアとか2番シンフォニーの系列曲。これだけシベリウスのピアノ曲を並べて聴いたのは久しぶりですねぇ。しみじみシベリウスっていいね。アンスネスのピアノの強靱なテクニックに裏打ちされたリリシズムがたまらんですねぇ。美しくて透明な音色。楽器にもよるけど、もう一つ音色に味がついたら言うことないんだけどなぁ。

後半はまずドビュッシーの「版画」。神秘的でしかもおおらかな響きのパゴダ、ゆったりとしたハバネラのリズムでラテンの叙情を歌う「グラナダの夕べ」。そして技巧的な「雨の庭」。ドビュッシーの音の世界を満喫しました。最後にショパン。20年前に聞いたときにはイマイチだったんですが、今回は大満足。どちらかというと技術の冴えが売り物だった時代から、音楽の自然な呼吸を身につけたみたいで、どの曲も自然に歌っています。バラードの2番、ノクターンの4番、そしてバラードの4番。最後の4番のバラードは技巧的にもかなりの難曲ですが、技術を感じさせない自然体の音楽が紡ぎ出されます。そしてあの雄大なクライマックスへと上り詰めていく、その課程が実にしなやかで聞き手に語りかけてくるような懐かしささえ感じられます。いやあ、最初に聞いたのはアンスネス20代の半ば頃。今回は40代の半ば。演奏家って知らない間にかなり変化するもんですね。

アンコールはスケールの大きな「英雄ポロネーズ」と、どこか懐かしいシベリウスの「悲しいワルツ」。